眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

雨の高原にて ――不在のオルゴール

小説/詩

Ⅰ.雨の高原(プレリュード)
雨は しめやかに 落葉松(からまつ)の林を濡らし
私の輪郭を 淡く 風景のなかに溶かしてゆく。
私は存在しない幻影、この高原の 霧のやうに
あなたの傘の すぐそばで 息をひそめている。
(あんなに明るかつた 夏の日の午后は
 どこへ 隠れてしまつたのでせう)
濡れたベンチには 誰の影も残つていない。
ただ 雨の音だけが 古い楽譜をめくるやうに
誰も知らない さみしい歌を 繰り返し歌つている。
Ⅱ.壊れたオルゴール(回想)
小さな木箱のなかで オルゴールが鳴つてゐる
ねぢを巻く手は もう どこにもないはずなのに。
一粒づつの音の礫(つぶて)が 雨音にまじり
銀色の たどたどしい旋律を 紡ぎだしてゆく。
(それは 私がかつて 口づさんだ調べ
 けれど 今の私には もう声がないのです)
音は 空中でひとつづつ 透明に砕けてゆく。
私は その余韻のなかに かろうじて立ちつくす
忘れられた 玩具(おもちや)のやうな あどけない幻影。
Ⅲ.光る滴(エピローグ)
雨があがれば、私は 虹と一緒に消えるでせう
落葉松の枝からこぼれる 一滴の 光の粒となつて。
あなたは それを美しいと 見上げるかもしれないけれど
それは 私の 最後のさよならの 瞬きなのです。
(オルゴールの音(ね)が ふつと 途切れるとき
 高原は 深い 沈黙のなかに帰つてゆく)
私は存在しない幻影、
けれど あなたの 湿つた記憶の底に
いつまでも 雨に濡れた 野薔薇の匂ひを残して。
さようなら、もう おやすみなさい。


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