眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

今日のお題 眠り姫は笑わない 或る古い物語へ

小説/詩

窓のそとは うすもも色のゆうぐれ
ひくく ひくく 風が鳴ってゐる
ぼくは 古い手帳を閉じて
あをざめた星が ともるのを待っている
しづかな部屋の かげのなかで
眠り姫は けふもわらはない
その睫毛(まつげ)に ひかりがふれても
その唇(くちびる)に あしたの予感がゆれても
姫はただ 失はれたものの名前を
夢のなかで さがしてゐるのだらうか
あんなに あかるい五月の午後を
もう二度と 知らないかのように
ぼくたちは いつか約束したことがあった
あおい雲が ちぎれて消える丘の上で
けれど その言葉は どこへ行ったらう
空気のなかに とけてしまったらうか
わらはない姫の まくらもとに
ぼくは 名もなき草の花をそへる
けれど その香(かぐは)しさも
姫の とざされた扉を ひらきはしない
「わらってごらん」と ぼくは言ふ
「世界は こんなにやさしいよ」
けれど しじま(静寂)が 返事をするばかり
姫の頬は つめたい大理石のままで
ああ 眠り姫 わらはない姫よ
きみの夢は どんなに遠い国へ行ったのか
そこでは 時計の針も とまって
永遠(とは)の午後が つづいているのか
ぼくは きみのために 歌をうたはう
けっして 届かないかもしれぬ歌を
わらはないきみが いつか目ざめて
わすれられた あしたに出会ふまで
窓はひろく 夜のいろにひらき
かぜはたえず わがゆめを運ぶ
あかるい あかるい 朝が来るのを
ぼくは きみの傍(かたは)らで 待っていよう。_


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