眠りの森 〜言葉の雫〜

眠

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

今日のお題 眠り姫は笑わない 或る古い物語へ

小説/詩

Ⅰ
窓のそとは うすもも色のゆうぐれ
ひくく ひくく 風が鳴ってゐる
ぼくは 古い手帳を閉じて
あをざめた星が ともるのを待っている
しづかな部屋の かげのなかで
眠り姫は けふもわらはない
その睫毛(まつげ)に ひかりがふれても
その唇(くちびる)に あしたの予感がゆれても
姫はただ 失はれたものの名前を
夢のなかで さがしてゐるのだらうか
あんなに あかるい五月の午後を
もう二度と 知らないかのように
Ⅱ
ぼくたちは いつか約束したことがあった
あおい雲が ちぎれて消える丘の上で
けれど その言葉は どこへ行ったらう
空気のなかに とけてしまったらうか
わらはない姫の まくらもとに
ぼくは 名もなき草の花をそへる
けれど その香(かぐは)しさも
姫の とざされた扉を ひらきはしない
「わらってごらん」と ぼくは言ふ
「世界は こんなにやさしいよ」
けれど しじま(静寂)が 返事をするばかり
姫の頬は つめたい大理石のままで
Ⅲ
ああ 眠り姫 わらはない姫よ
きみの夢は どんなに遠い国へ行ったのか
そこでは 時計の針も とまって
永遠(とは)の午後が つづいているのか
ぼくは きみのために 歌をうたはう
けっして 届かないかもしれぬ歌を
わらはないきみが いつか目ざめて
わすれられた あしたに出会ふまで
窓はひろく 夜のいろにひらき
かぜはたえず わがゆめを運ぶ
あかるい あかるい 朝が来るのを
ぼくは きみの傍(かたは)らで 待っていよう。_


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