眠りの森 〜言葉の雫〜

眠

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

湖畔の宿 ――記憶の淡い領土にて

小説/詩

一
窓をひらけば あかるい風の帯が
見知らぬ季節の つぶやきを運んでくる
僕はただ 藍色の湖面をみつめて
遠い日の約束のように 椅子に深く沈んでいる
さざなみは 銀色の鱗(うろこ)をきらめかせ
古い手紙の 行間を濡らしてゆくようだ
昨日の僕が ここに置き忘れた言葉を
いまは名もなき 小鳥たちがついばんでいる
二
しあわせは いつも雲のゆくえに似ている
掴もうとすれば 指の隙間をすり抜けてゆく
かつて僕たちが 夢みたあのあかい屋根の家は
いまも木立の向こうで ひっそりと眠っているだろうか
「忘れてしまえ」と 風が低く囁くけれど
忘却は 僕にとって甘やかな休息にすぎない
透明な水底(みなそこ)に 沈んだ思い出の礫(つぶて)が
夕陽を浴びて あえかに光を放っている
三
ああ このしずかな宿の 薄暗い廊下には
だれもいないはずの 足音が響いている
それは僕自身の 幼い日の幻影(かげ)なのか
あるいは もう帰らないひとの 優しいため息なのか
パステルで描かれたような 空のひろがりが
次第にすみれ色の ヴェールに包まれてゆく
僕はペンを置き まだ白いままの紙に
消え入りそうな 祈りのひと節を書き記す
四
夜が来れば 湖は鏡となって
また新しい 孤独を映しだすだろう
星たちは 冷たい火を灯しながら
僕の眠りを 静かに守ってくれるだろう
さよなら 今日という名の 美しい幻
僕はまた 夢のなかで君に会いにゆこう
風が止み 世界が深い藍に沈むまで
僕はここで やさしい音楽を聴いている


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