眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

薔薇月夜の森

小説/詩

★昭和初期の文語調の文体で★

それは誰が遺せしやさしき夢の跡ならむ
草の葉のうしろにて ひそかにささやき交はす夜
森の梢はそよぎ あはき薔薇いろの月は
しづかに澄める空を わたりゆくなり
森の奥の 見知らぬ小さきくぼみには
名もなき白き花の ひっそりと咲きてあれ
あわき紅の月ひかりを浴びて
その花びらは 夢のごとくに震へてゐる
梢の闇には 一羽の小鳥の
あたたかき夜の風に かすかにつぶやくを聴く
あれは失はれし季節をなつかしむ歌か
それとも 明日の旅立ちを告ぐるおとづれか
花はかほりを放ち 鳥はまた眠りにつく
すべてがひとつの幸福なる記憶に沈むとき
わがこころもまた 御身の影にとけてゆく
されど 夜はあまりにも深くして
月の光は 冷たき涙のごとくに
わが手のひらのうへにて 白く凍てつくだに
御身はもはや いづこにもまさぬと
風の耳もとに 幾度もささやきつづくれば
明くることなき夜のなかにして 森はしづかに嘆息をもらし
私は御身の名を 風のなかに失ひてしまふ
やがて月は 山の端へと沈みゆき
あはき薄紅のひかりも すべて消え失せぬ
遺されしものは 音なき深き闇と
冷たき霧に包まれたる わが小さきからだのみ
小鳥はもはや 歌ふことを忘れ
白き花も 闇の底にてしづかに目を閉づ
御身のゐまさぬこの世界は あまりに広く
私はただ ひとつの影となりて立ち尽くす
あたたかき記憶のみを そっと胸に抱きしめて
私はこの静けき哀しみのなかに 眠りにつかむ
いつかまた 御身の夢に逢ひうるその日まで_


#日記広場:小説/詩