晩期(梅雨のあしおと)
「幸福(しあはせ)のあつまる場所を、人は終着駅と呼ぶのださうです。
しかし、そこへ行き着くための切符を、私はいつのまにか失くしてしまいました。
しかし、そこへ行き着くための切符を、私はいつのまにか失くしてしまいました。
気がつけば、私のまわりには、ただ鬱陶しい梅雨の雨と、
行き場のない、みつともない涙の雫があるばかり。
行き場のない、みつともない涙の雫があるばかり。
いまさら、誰を恨むわけでもありません。
これは、ただの愚かな男の、夕闇のつぶやきでございます――。」
これは、ただの愚かな男の、夕闇のつぶやきでございます――。」
ああ、またしても鬱陶(うつたう)しい雨の季節が始まるのだ
夕闇のなか、あぢさいの花ばかりが妙に艶(つや)かしく
私はただ、自身のくだらない傷口を眺めるやうに
窓にこびりつく、みつともない涙の雫を数へてゐる
夕闇のなか、あぢさいの花ばかりが妙に艶(つや)かしく
私はただ、自身のくだらない傷口を眺めるやうに
窓にこびりつく、みつともない涙の雫を数へてゐる
遠くで、寂しげな汽笛の音がひとつ、私を嘲笑(わら)ふ
「お前はどこへも行けないのだ」と、その音は云ふ
さうだ、私は終着駅に置き去りにされた、ただの道忘草(みちわすれぐさ)
生きていることが、もうそれだけで、たまらなく恥づかしい
「お前はどこへも行けないのだ」と、その音は云ふ
さうだ、私は終着駅に置き去りにされた、ただの道忘草(みちわすれぐさ)
生きていることが、もうそれだけで、たまらなく恥づかしい
どうせあなたも、私を嘘つきだとおもひ出すのだらう
風のやうな優しい言葉で、私を騙してくれればよかつたのに
梅雨の夜のつめたい闇は、容赦なく私を窒息させる
風のやうな優しい言葉で、私を騙してくれればよかつたのに
梅雨の夜のつめたい闇は、容赦なく私を窒息させる
いっそ、このまま消えてしまへたら、どんなに楽だらう
点したばかりの薄暗いランプを、私はわざと吹き消して
暗闇のなか、ひとり声をあげずに、ただ、冷たい涙に咽んでいる_
点したばかりの薄暗いランプを、私はわざと吹き消して
暗闇のなか、ひとり声をあげずに、ただ、冷たい涙に咽んでいる_