眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

_錆びた錨_

日記

錆びた錨が、引き潮の底で骸骨のように横たわっている。
夜霧が、波止場のちぎれたロープを白く濡らしていく。
耳を澄ませば、海の底から響くのだ。
あの「エターの歌」が。
それは、かつてこの港を支配した冷たい幻影。
消え去ったはずの、古い神の囁き。
 エターの歌

満ちる潮は 鉛の味

乾く喉に 毒を注げ

夜が明けても 誰も来ない

お前はここで 朽ちてゆく
煙草に火をつける。
湿ったマッチの煙が、苦く鼻腔を突いた。
コートの襟を立て、俺は錆びついた手すりに背を預ける。
この町は、とっくに死んでいる。
魚の腐った臭いと、重油の混ざった泥。
まともな人間は、最後の貨物船と一緒にここを去った。
残ったのは、行き場のない記憶と、俺のようなはぐれ者だけだ。
バーのネオンが、不規則に瞬いている。
割れたガラス窓の向こうで、琥珀色の酒が揺れる。
だが、その安酒でさえ、耳の奥の歌を消し去ることはできない。
「まだ聴いているの」
背後で、カモメの羽ばたきのような足音がした。
振り返る必要はない。
気配だけでわかる。
この町で、エターの歌に囚われた奴の顔は、みな同じ影を持っている。
「耳を塞いでも無駄さ」
俺は、煙を闇に向かって吐き出した。
「あれは、海が歌っているんじゃない。俺たちの血が鳴っている」
波が、コンクリートの岸壁を激しく叩く。
まるで、早くこちら側へ来いと急かすように。
歌は、夜が深まるにつれて高くなっていく。
冷たく、容赦のない、終わりを告げるメロディ。
俺は煙草の火を靴底で踏み消し、深く帽子をかぶり直した。
この寂れた港町で、支払うべき代償はまだ残っている。
エターの歌が鳴り止むその時まで、この冷え切った両手をポケットに深く突き込み、耐えるだけだ。

_「あいにく、お前の涙を拭くハンカチは持ち合わせていない。……だが、傘の代わりくらいにはなってやる」_

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