黒いコートの男
激しい雨が、波止場のコンクリートを黒く染めていく。
男は一人、海を見つめて立っていた。
男は一人、海を見つめて立っていた。
米軍の古い放出品だという、漆黒のトレンチコート。
大きく立てた襟が、容赦なく吹き付ける潮風を遮っている。
汚れ一つないそのコートは、泥にまみれたこの港町で、奇妙なほど気高く見えた。
大きく立てた襟が、容赦なく吹き付ける潮風を遮っている。
汚れ一つないそのコートは、泥にまみれたこの港町で、奇妙なほど気高く見えた。
耳の奥で、またあの「エターの歌」が響き始める。
【エターの歌】
満ちる潮は 鉛の味
乾く喉に 毒を注げ
夜が明けても 誰も来ない
お前はここで 朽ちてゆく
男は、ゆっくりと振り返った。
その動きは、驚くほど静かで、そして綺麗だった。
濡れた黒髪の隙間から、凍りついたような鋭い瞳がのぞく。
男の端正な横顔には、この町の誰もが持っていない、激しい過去の傷跡が隠されているようだった。
濡れた黒髪の隙間から、凍りついたような鋭い瞳がのぞく。
男の端正な横顔には、この町の誰もが持っていない、激しい過去の傷跡が隠されているようだった。
「……またその歌か」
男は低く、掠れた声で呟いた。
ポケットに深く突き込まれた両手は、決して武器を握るためではない。
ただ、去っていった者たちの体温を、そこに閉じ込めているだけだ。
ポケットに深く突き込まれた両手は、決して武器を握るためではない。
ただ、去っていった者たちの体温を、そこに閉じ込めているだけだ。
「この町は、歌で人を溺れさせる。だが、俺の耳はもう、別の声しか聴かないと決めているんだ」
男の着るブラックのトレンチコートが、風に激しく翻る。
その漆黒の背中は、まるでこの町のすべての闇を一人で背負っているかのように、孤独で、そして美しかった。
その漆黒の背中は、まるでこの町のすべての闇を一人で背負っているかのように、孤独で、そして美しかった。
_「振り返るな。俺の背中には、ろくな思い出が写っていない」_
眠りの森 https://ameblo.jp/nemuri00/