眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

熱帯夜のスコール、肉体と魂

日記

アスファルトが昼の熱を吐き出している。
港の空気は重く、肌にねっとりと絡みついた。
開け放たれたバーの窓から、ビリー・ホリデイが流れてくる。
「肉体と魂」のブルース。
その歌声だけが、この乾いた熱帯夜のなかで冷たく澄んでいた。
上着を脱ぎ、シャツの袖を乱暴にまくり上げる。
額を流れる汗は、涙の代わりに夜の闇に消えた。
すべてを失い、この街の最果てまで流れ着いた。
ポケットのライターの火さえ、むせ返る熱気で赤く爆ぜる。
波止場の水面は、ぬるい油のように不気味に光っていた。
去っていった者たちの幻影が、陽炎のように揺れては消える。
だが、どれだけ傷ついても、俺の足はまだ止まっていない。
すり切れた靴は、まだ次のステップを覚えている。
「戻ってきて」と、かすれたサックスが夜空へ伸びていく。
その切ない音色に、ぽつりと冷たいものが頬に当たった。
夜の底から湧き上がった、激しいスコール。
すべてを洗い流すような雨が、熱い世界を叩きつける。
雨の向こう、遠くの水平線がほんの少しだけ白んできた。
重かった雲の切れ間から、星がひとつ、強く瞬く。
夜明けは、すぐそこまで来ている。
雨上がりの冷たい風を胸いっぱいに吸い込み、俺は前を向いた。
まだ何も始まってはいない。
夜が明ければ、新しい靴を買いに行くことだってできるさ。


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