眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

パリの森

小説/詩

1
木々のあいだに ひそやかな光がこぼれてゐる
それは 僕たちの知らない古い言葉のやうに
五月の緑のなかに しづかに佇むとき
僕は ひとりの旅人になつてしまふ
散歩道(あれえ)の奥へ 奥へとつづく足跡は
だれが残した うすい追憶だらう
池の面には あわい水色をした空が映り
一羽の白鳥が さびしい輪を描いてゐる
都会(まち)のざわめきは 遠い波の音のやうに
この梢のしたでは 優しくかき消され
僕は ひとつの古いベンチに腰をかける
忘れてしまつた むかしの歌を口ずさめば
木漏れ日は 僕の肩にやさしく触れて
ただ かすかな風のなかに消えてゆく
2
夕暮れが 静かに梢を染めてゆくころ
森は 深い(あると)の楽器のやうに鳴りひびく
幹の影が 長く、長く伸びて
僕の憂鬱を そつと包みこんでしまふ
きみと歩いた あの並木道はどこへつづくのか
いまはただ 枯葉のささやきを聴くだけ
届かない手紙のやうに ちぎれた雲が
パステル色の空を あてもなく流れてゆく
夜の帳が この静けさを満たすまえに
僕は もう一度だけ振り返る
それは 僕の心に咲いた 小さな青い花
森をぬければ またあかるい街の灯(ともしび)
けれど僕の帽子には ひとしずくの
緑の寂しさが 残つてゐるだらう


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