眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

パリの森 冬の霧

日記

1
しろい霧が 並木道を深くうづめてゐる
そこには だれの足跡もみつからない
僕は ただひとりの寂しい個影(かげ)となり
凍てついた鋪道を あてもなく歩いてゐる
古い外套のなかに 両手を深く沈め
吐きだす息の あわい白さを見つめながら
僕は むかし僕が愛したひとたちの
やさしい面影を 霧のなかにさがしてゐる
梢のさきで ちひさな冬の小鳥がひとつ
かすれた声で なにかを啼いてゐるが
その歌もまた 霧のなかに吸はれてゆく
すべては 遠い追憶の彼方に隠され
僕は 冷たい風のなかで立ちつくす
ただ 僕だけの憂鬱を ひそかに抱きしめて
2
夕暮は あじさい色の霧の底からやつてくる
街のともしびが ぼんやりとにじむころ
僕は 自分の影さえも見失つてしまふ
この広い森の どこに僕の居場所があるだらう
きみに宛てた ちぎれた言葉のやうに
霧は やさしく僕の肩を濡らすけれど
もう僕を呼ぶ なつかしい声はきこえない
ランプの火も どこか遠くで震へてゐる
夜の冷気が この孤独を凍らせるまえに
僕は もういちどだけ空を仰ぐ
そこには 星もない暗い帳があるばかり
ひとつの季節が しづかに終わらうとしてゐる
僕は ただ外套の襟をたてながら
冬の霧のなかへ 消えてゆくのだ


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