眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

モンマルトルの憂鬱

小説/詩

1
どこかで 古い手回しオルガンが鳴つてゐる
坂道のあちらから またこちらから
ひとびとは うすい影をひきずりながら
夕暮のなかに しづかに消えてゆく
それは いつか僕が夢にみた街のやうに
しろい石畳が やさしく濡れてゐる
とほい空には あわい葡萄色の雲
だれもが なにかを忘れてきた顔をして
窓のともしびが ひとつ、またひとつ
あかるい寂しさを ともしはじめる
僕は 舗道の角にたたずみながら
去つてゆく季節の うしろ姿をみてゐる
失はれたものは もう戻らないのに
風は ただ青い溜息を運んでくる
2
サクレ・クールが 白く浮かびあがるころ
僕の心は 小さな、哀しい鳥になる
屋根裏部屋の 冷たいランプのしたで
ふるへる指で 一通の手紙を書いてゐる
きみに宛てた けれど届かない言葉ばかり
夜の霧が そつと窓硝子を叩くだらう
「哀歌(エレジイ)」は ただノオトの隅に埋もれ
またたく星も どこか遠くで眠つてゐる
丘をくだる風が 僕の頬をかすめるとき
あのなつかしい調べが またきこえる
それは ぼんやりとした僕の憂鬱
ひとりで歩くには この坂道は長すぎて
ただ、かすかな追憶の匂いだけが
あじさい色の闇に 溶けてゆくのだ


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