眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

焼け野原のうた

小説/詩

I
あの日 すべてを奪ひ去つた爆風のあとで
世界はただ 灰色の沈黙に包まれてゐた
幼い母と妹が 奇跡のように踏みしめた地面は
かつての緑の森も 教会の影も失つて
それから数日が過ぎた あるひかりの午後のこと
硝煙の残る瓦礫のなかに まぼろしのやうに
気高く 美しい親子が佇んでゐた
あまりに過酷な地獄の底で そこだけが白く光るやうに
娘は静かに ひとつのうたを歌ひはじめる
それは涙のやうに清らかな 祈りの調べ
「お豆腐をください どうか私たちに恵んでください」
その歌声は 崩れた聖堂の鐘の音のやうに
ただ がらんどうの空へと吸ひ込まれてゆく
生きるための飢えと 失はれぬ美しさをそこに残して
II
母は何度も その日のことを語つてくれた
あの焼け野原で聴いた 切ない歌声のことを
それは消へ去つた森の教会が 最後に響かせた
目に見えない賛美歌だつたのかもしれない
いまはもう あの恐ろしい風も 飢えの記憶も
遠い過去のしじまのなかに 埋もれてしまつたけれど
母の言葉を通して ぼくの胸にはありありと浮かぶ
灰のなかで たしかに美しく生きようとした人々の姿が
森は消えても 母が遺したその語り草は
いまもぼくの心のなかで 静かにうたひつづけてゐる


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