眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

湖に投げた涙壺によせて

小説/詩

僕たちの記憶が しずかに昏(く)れてゆくころ
そこには ひとつの青い湖(みづうみ)があった
風は かすかなさざめきを連れて
失われた季節の お話をくりかえしていた
あなたは あんなに小さかった硝子の壺を
その細い指先から そっと放した
そは(其は) あふれるほどの涙をあつめて
ひそかに胸の奥に しまわれていたもの
あたたかな陽射しのなかで 光っていた日も
つめたい夜露のなかで 凍えていた夜も
僕たちは ただひとつの言葉を
さがしつづけていたのではなかったか
  
水面(みなも)は ひとつの輪をえがいて
それから すぐに元のしづけさに還った
底ふかく 沈んでゆく小さなゆめを
魚たちは 見おくることも partners としない
「さようなら」と つぶやいたのは僕だったか
それとも 風にまたたく雲の影だったか
もう 涙をたくわえる器(うつは)をなくして
僕たちの瞳は 乾いた空を映している
忘れてしまおう あんなに優しかった日々を
水底(みなそこ)のくらやみで 壺が眠るように
追憶は 冷たい砂にうもれて
いつしか ひとつの美しい物語になる
  
窓をひらけば 遠い山なみがかすみ
どこかで 小鳥がせわしげに啼いている
僕は あなたのゆくえを知らないけれど
この風のなかに あなたの呼吸をきく
おやすみなさい 僕のあわい哀しみたち
湖(みづうみ)は すべてを深く包みこみ
ただ 青い、青い鏡となって
あしたの あたらしい光を待っている


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