眠りの森 〜言葉の雫〜

眠

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

湖に投げた涙壺によせて

小説/詩

1
僕たちの記憶が しずかに昏(く)れてゆくころ
そこには ひとつの青い湖(みづうみ)があった
風は かすかなさざめきを連れて
失われた季節の お話をくりかえしていた
あなたは あんなに小さかった硝子の壺を
その細い指先から そっと放した
そは(其は) あふれるほどの涙をあつめて
ひそかに胸の奥に しまわれていたもの
あたたかな陽射しのなかで 光っていた日も
つめたい夜露のなかで 凍えていた夜も
僕たちは ただひとつの言葉を
さがしつづけていたのではなかったか
  2
水面(みなも)は ひとつの輪をえがいて
それから すぐに元のしづけさに還った
底ふかく 沈んでゆく小さなゆめを
魚たちは 見おくることも partners としない
「さようなら」と つぶやいたのは僕だったか
それとも 風にまたたく雲の影だったか
もう 涙をたくわえる器(うつは)をなくして
僕たちの瞳は 乾いた空を映している
忘れてしまおう あんなに優しかった日々を
水底(みなそこ)のくらやみで 壺が眠るように
追憶は 冷たい砂にうもれて
いつしか ひとつの美しい物語になる
  3
窓をひらけば 遠い山なみがかすみ
どこかで 小鳥がせわしげに啼いている
僕は あなたのゆくえを知らないけれど
この風のなかに あなたの呼吸をきく
おやすみなさい 僕のあわい哀しみたち
湖(みづうみ)は すべてを深く包みこみ
ただ 青い、青い鏡となって
あしたの あたらしい光を待っている


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