眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

盂蘭盆会に寄せて  蛍 最終

小説/詩

茜せる(あかねせる)夕暮のひかりは
白樺の白き幹を あかく染め
小川の水は 桔梗色の硝子を敷くがごとく
うす紫の野菊の影を うつして流るる
瑠璃せる(るりせる)夜のふかまりゆけば
碧き(あをき)火をともす 蛍の群は
かへりこし あのひとたちの御魂(みたま)のごとくに
淡きひかりの列をなして ひくく舞ひおはす
ともる夜空に ぽつり、ぽつりと
星の粒は サファイアのごとくにまたたき
地上に降りし星のごとき 蛍のゆらめきは
わが胸のさびしさを やさしく照らす
おん身はどこへ 吹きすぎてゆくや
真珠のごとき雲を 誘ふ(いざなふ)秋の風よ
かへらぬ人たちの ささやきのごとき
あの静けき調べを いま一度(ひとたび)運んでおくれ
あとがきにかへて──背景にある物語
それは初秋の風が、白樺の梢をかすかに震はせて吹きすぎる、ある一暮(ひとくれ)のことでありました。
盂蘭盆(うらぼん)の夜、私はいつものやうに、〇山の麓のしづかな村の、小さな窓辺に腰をおろしてゐました。昼の間の激しいあつさは、夕暮の茜(あかね)のひかりが桔梗(ききょう)色の闇へと溶け去るにつれて、うそのやうに冷ややかな空気へと移り変はつてゆきます。小川のせせらぎは、まるで誰かが爪弾く古い楽器のやうに、絶え間なくあややな音を響かせてゐるのでした。
ふと見れば、草むらの野菊の辺りから、青緑色の小さな火をともした蛍の群が、申し合はせたやうに湧き上がり、川面を低く流れてゆきます。そのはかないまたたきは、まさにこの夜、遠い国から私の庭へと帰つておはした、なつかしい人たちの御魂(みたま)の足音のやうに思はれてなりませんでした。
見上げる夜空には、サファイアのごとき星の粒がこぼれんばかりに輝いてゐます。地上の蛍の火と、天空の星の粒。二つのひかりが静かに交差する境界(さかひ)で、私はもう一度だけ、すぎて去つたあの日々の、甘やかな夢のつづきを見てゐたのかも知れません。風が吹くたびに、かへらぬ人たちのやさしいささやきが、今も耳の奥に響いてゐるやうであります。


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