届かざる薄紅
若き兵士の冷え切った懐(ふところ)から、
くしゃくしゃに丸められた一通の紙片が現れる。
それは、私が教えた文字で綴られた、母への便り。
だが、その素朴な言葉の半分は、
彼の胸から噴き出した、鮮烈な血によって覆い隠されていた。
くしゃくしゃに丸められた一通の紙片が現れる。
それは、私が教えた文字で綴られた、母への便り。
だが、その素朴な言葉の半分は、
彼の胸から噴き出した、鮮烈な血によって覆い隠されていた。
『お母さん、こちらはもうすぐ冬が来ます。
毎日、先生の言った「美しい祖国」のために戦っています。
だけど、夜になると寒くて、お母さんの焼くパンの匂いが恋しい。
もし僕が帰れたら、またあの白樺の林を一緒に歩きましょうね。』
毎日、先生の言った「美しい祖国」のために戦っています。
だけど、夜になると寒くて、お母さんの焼くパンの匂いが恋しい。
もし僕が帰れたら、またあの白樺の林を一緒に歩きましょうね。』
「ああ、ああ、神よ! これが私の放った言葉の結末か!」
手紙を握りしめる私の指が、まだ乾かぬ若者の血で赤く汚れていく。
彼は飢えと恐怖に震えながら、最期まで私を信じていた。
私が説いた「大義」という名の、実体のない幻影を!
母の温もりしか知らなかった純真な少年を、
私は、言葉という名の引き金で撃ち殺したのだ!
手紙を握りしめる私の指が、まだ乾かぬ若者の血で赤く汚れていく。
彼は飢えと恐怖に震えながら、最期まで私を信じていた。
私が説いた「大義」という名の、実体のない幻影を!
母の温もりしか知らなかった純真な少年を、
私は、言葉という名の引き金で撃ち殺したのだ!
激しい豪雨が、戦場を、そして私の五体を容赦なく叩きつける。
雨水は手紙の血を滲ませ、まるで紙そのものが涙を流しているようだ。
遠く離れた故郷の村で、何も知らずに息子の帰りを待つ母。
その優しく哀しい瞳を想うとき、私の胸は爆発せんばかりに引き裂かれる。
雨水は手紙の血を滲ませ、まるで紙そのものが涙を流しているようだ。
遠く離れた故郷の村で、何も知らずに息子の帰りを待つ母。
その優しく哀しい瞳を想うとき、私の胸は爆発せんばかりに引き裂かれる。
「叫べ、嵐よ! 呪え、この大気よ!」
私は泥の中に膝をつき、血染めの手紙を抱いて咆哮する。
この手紙を母に届けることさえ、今の私には許されない。
私は一生、この血の匂いから逃れられない。
理想に狂った知識人の胸に、届かぬ母への愛の言葉が、
消えない烙印のように、いま深く、深く刻み込まれた
私は泥の中に膝をつき、血染めの手紙を抱いて咆哮する。
この手紙を母に届けることさえ、今の私には許されない。
私は一生、この血の匂いから逃れられない。
理想に狂った知識人の胸に、届かぬ母への愛の言葉が、
消えない烙印のように、いま深く、深く刻み込まれた
人間の条件とは、「理想を抱いて天を目指しながらも、泥濘(どろ)にまみれた大地から足を離せない」という絶対的な矛盾そのものです