眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

秋麗3

小説/詩

それから、何年の歳月が流れたことでしょう。
あの人が消息を絶ってから、私の元には、生きているという便りも、あるいは死んだという報せも、何一つ届くことはありませんでした。
けれど、あの日以来、私の中で何かが決定的に変わってしまったのです。
毎年、あのどこまでも高く透き通った青空が広がり、冷ややかな風が吹き抜ける季節になると、私は決まってあの誰もいない駅のホームに立ちます。世間の人たちは、相変わらずそれを「秋麗(あきうらら)の風」と呼び、平気な顔で通り過ぎてゆきます。
でも、私には分かるのです。
この風の冷たさは、あの人が必死に隠そうとしていた、傷口の冷たさそのものなのだと。あの人は、自分が醜い人間だと思い込み、人格破綻したのだと泣いていましたが、それは少しも正しいことではありません。あの人は、あまりにも優しすぎたのです。誰のことも傷つけることができず、ただ愛されたいと願うことさえ罪だと怯えていた、あまりに不器用で、哀しいほどに純粋な魂だったのです。
風が、私の耳元をヒューと吹き抜けてゆきます。
それはまるで、「私はここにいるよ」という、あの人の掠れた囁きのようにも聞こえます。
あの日、あの人は風に怯え、あわてて上着の襟を合わせてうつむいていました。私はもう、あの人を一人でうつむかせたりはしません。今度は私が、その冷たい風を、私の両手でそっと包み込むように受け止めるのです。
「大丈夫ですよ。私は、あなたをちっとも軽蔑なんてしていません。
あなたがどれほど自分を責めても、私にとっては、あなたは神様みたいに綺麗で、いい子でした」
胸の奥でそう呟くと、冷たかった風の中に、ほんの一瞬だけ、ふわりと温かい陽だまりのような匂いが残った気がしました。
あの人がどこでどうしていようとも、この秋麗の風が吹く限り、あの人の孤独は、私の心の中で永遠に抱きしめられ、許され続けているのです。


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