黄昏の草原
夕陽というものは、どうしてこうも人を意気地なしにするのだろう。
西の空が、まるで熟し切った無花果(いちじく)を指先で押し潰したような、あえかな赤紫に染まり始める頃、私は独り、どこまでも続く無名の草原に突っ立っていた。
昼間の青空の、あの押し付けがましい快活さにすっかり疲弊し、逃げるようにしてたどり着いたのが、この見渡す限りの草の海であった。
昼間の青空の、あの押し付けがましい快活さにすっかり疲弊し、逃げるようにしてたどり着いたのが、この見渡す限りの草の海であった。
風が、低く這うようにして渡っていく。
かすかに冷えを帯びた九月の風が、ススキの穂を、寂しげな銀色に波立たせる。その一本一本が、まるで世界の終わりを予感して震えている、気弱な人間の指先のように見えてならなかった。
「おい」と、私は声を出さずに、足元の小さな名も無い草に呼びかけてみる。しかし、草はただ黙って、影を長く引き伸ばすばかりである。
かすかに冷えを帯びた九月の風が、ススキの穂を、寂しげな銀色に波立たせる。その一本一本が、まるで世界の終わりを予感して震えている、気弱な人間の指先のように見えてならなかった。
「おい」と、私は声を出さずに、足元の小さな名も無い草に呼びかけてみる。しかし、草はただ黙って、影を長く引き伸ばすばかりである。
道に迷ったわけではないのだ。いや、最初から行く先など無かったのだから、迷いようもない。私はただ、己のなかの、どうしようもない「生(せい)の不器用さ」から逃げ出したかっただけなのだ。都会の、あの、誰も彼もが他人の仮面を剥ぎ取ろうと血眼になっている、息苦しい人混み。そこから一歩外へ踏み出せば、途端にこのような、寄る辺ない寂寞(じゃくまく)が私を待ち受けている。
じわじわと、夜の冷気が足元から這い上がってくる。
黄昏は、ほんのひとときの猶予だ。昼の嘘と、夜の絶望が交差する、もっとも残酷で、もっとも甘美な数分間。
私は、草の匂いを含んだ冷たい空気を深く吸い込み、わざとらしく、ひとつ大きな溜息をついてみせる。そうして、まるで大層な悲劇の主人公にでもなったような気恥ずかしさに襲われ、すぐにまた、うつむいてしまうのだ。
黄昏は、ほんのひとときの猶予だ。昼の嘘と、夜の絶望が交差する、もっとも残酷で、もっとも甘美な数分間。
私は、草の匂いを含んだ冷たい空気を深く吸い込み、わざとらしく、ひとつ大きな溜息をついてみせる。そうして、まるで大層な悲劇の主人公にでもなったような気恥ずかしさに襲われ、すぐにまた、うつむいてしまうのだ。
影が、完全に草むらへ溶けていく。
もうすぐ、すべてが真っ暗になる。そうなれば、私はまた、這うようにして、あの忌々しい、しかし恋しい人間の営みの中へと戻っていかなければならないのだろう。
もうすぐ、すべてが真っ暗になる。そうなれば、私はまた、這うようにして、あの忌々しい、しかし恋しい人間の営みの中へと戻っていかなければならないのだろう。