眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

甘い脱落

小説/詩

ねえ、もういいじゃありませんか。そんなに背筋を伸ばして、一体誰に褒められたいのです?
 窓の外をごらんなさいよ。あの、すべてを曖昧に塗りつぶしていく薄紫の黄昏が、すぐそこまで来ている。
 真面目に生きるなんて、ひどく疲れるお祭りみたいなものです。あなたも私も、そのお祭りのいちばん退屈な係を押し付けられているだけだとは、思いませんこと? 
 正しいこと、立派なこと。そんなものは全部、あの昼間の、あの押し付けがましい太陽と一緒に、西の山へ沈めてしまえばいいのです。
 ちょっと、こちらへいらっしゃい。
 ここには、冷たい紅茶と、少し古くなったビスケットがあるだけ。あたたかい暖炉も、輝かしい未来もありませんけれど、その代わり、あなたを値踏みするような世間の目だって、どこにもありはしないのですから。
 あなたが今抱えている、その「ちゃんとしなければ」という重たい荷物、私が全部、庭の草むらに放り出してきてあげましょうか。
 大丈夫、ほんの少しの勇気……いえ、ほんの少しの「だらしなさ」があれば、誰だって今すぐに幸せな、ただの「のらくら者」になれるのです。
 夜が来ますよ。
 すべてが真っ暗になってしまう前に、さあ、私と一緒に、この世のいちばん正しい場所から、そっと足を踏み外してみませんか?
「恐れ入ります」だなんて、もう、そんな悲しい言葉を口にするのはおよしなさい。
 あなた、一日中そうやって頭を下げて、張り付いたような笑顔を浮かべて、心の中では血を流していらしたのでしょう。
 言葉の端々にまで気を配り、誰の感情も逆なでしないように、自分をすり減らして、すり減らして……。そうして出来上がった「丁寧で、お行儀のいいあなた」なんて、私、ちっとも美しいとは思いません。むしろ、痛々しくて見ていられない。
 さあ、その窮屈なネクタイも、しゃちほこばった敬語も、全部ここに脱ぎ捨ててしまいなさい。
 私の前では、どんなに乱暴な言葉を使ったって構わないのですよ。
「冗談じゃない、やっていられない」と、大声で畳を叩いたって、私は笑ったりいたしません。むしろ、あなたのその剥き出しの怒りや、だらしのない本音のほうが、何百倍も愛おしい。
 世間というものは、あなたに「立派な大人」であることを求めますけれど、それは世間が楽をしたいからに過ぎないのです。
 そんな勝手な要求に、これ以上付き合ってあげる必要なんてありません。
 今夜くらいは、誰に対しても「失礼」な人間のままでいましょう。
 お茶が冷めているとか、部屋が散らかっているとか、そんなことも全部どうでもいいじゃありませんか。
 さあ、これ以上一歩も、世間の望む場所へ歩くのはおやめなさい。ここで一緒に、ただの「ただの人」になって、泥のように眠ってしまいましょう。


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