眠りの森 〜言葉の雫〜

眠

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

美的感性が枯渇することを許されない私

小説/詩

風のなかに かすかなる調(しらべ)のきこゆる
あのふかき青き空の 雲のゆくへに
私はいつでも 眼をひらいてゐねばならぬ
美しきものが 私を呼びつづけてゐるゆゑ
枯れ果つることを 許されぬ我が心は
一つの小さき花を ひそかに咲かせる
光と影の あはひ織りなす夢のなかに
私はいつも みづみづしき歌を求めてゐる
あゝ 言葉が嘆息(たんそく)に変わるその前に
私はすくい上げねばならぬ こぼるる色彩(いろ)を
世界が私に 美しくあれと命ずるごとくに
されば私は この静けき夜(よ)のなかで
あたらしく 星のきらめきを集むる
枯るることなき 我が魂(たましひ)の歌よ
――後書きに代へて
これらの小さな歌の数々を、私は初夏のあはい光のなかで、あるいは風のゆきすぎる窓のほとりで書きつけてゐた。
私の心には、いつからか一つの厳しい戒めのようなものが棲みついてゐる。世界がこれほどに優しく、またあまりにも美しく私を呼びつづけてゐるのに、もしも私の眼が曇り、私のなかの澄んだ泉(それをもて私は歌を紡ぐのであるが)が枯れ果ててしまったなら、私はもはや私でなくなってしまうだろうという怖れ。美に対して、いつでも新しく、いつでもみづみづしく震えてゐなければならぬという、それは私に課せられた、切なくも甘やかな宿命のやうなものであった。
言葉はいつでも、私の嘆息よりもさきに零れおちてしまう。パステル画の粉が風にさらわれてゆくやうに、捉えがたい色彩を、私はこの十四行の小さな器のなかに、そっと調律して閉じ込めたつもりである。
もしもこの歌のなかに、あなたの心をかすかにゆする星のきらめきが、ひとつでも残ってゐるならば――それは私の魂が、まだ枯れずに生きてゐることの、なによりの証(あかし)となるにちがいない。


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