Ben日記

ベンクー

思ったこと、感じたことの日記

タケシの武勇伝…(24)

自作小説

「何にしたって、今返事すんのはムリっすよ」

「ええ、それは分かってます。それにお母さんとも相談しなければならないでしょうしね…でも、私としては是非了解して欲しいと思っています。まあ、手術よりもリハビリの方に時間がかかるでしょうから。もちろん費用など一切かかりませんのでその旨も一つ考慮してください。」

「北野くん、僕も是非受けて欲しいんだ。ウチの研究所が君の復帰に力になれたら僕としてもホッするし、なにより君のマウンド姿をもう一度見れれば嬉しいしね!」

 シンさんが満面の笑顔で声をかけた。完全にマウンドにいるタケシの姿を思い描いているまなざしだ。

 正直、タケシはそんなシンさんの視線が辛いと感じていた。自分ももう一度野球がしたい気持ちはある。だが、一度あきらめた思いにすぐに火がつくほど単純でもない。

「とにかく一度考えさせてください。正直、手術を受けることも不安があるし…ところで、どうして今さら時間がかかると良くないんすか?ケガしてからもう8ヶ月も過ぎてるし、なんか問題があるんすか?」

「これはちょっと難しい話になるのですが、人間の末端細胞は…まぁ、貴方の場合だと使えなくなった指先のことですが、時間が経ち過ぎるといくら神経をつなげても指の周りの筋肉や組織が活性化しなくなるのです。幸い貴方の場合、まだ身体的にも若いし、外部から力をかければ指自体は曲げられる状態にある。時間が経つとそれもできなくなるんです」

「北野くん、人間の体って使わない部分ができるとそこに必要最小限しか栄養を送らなくなるんだ。だからそのままの状態でいると、君の中指だけが他より細くなっていくんだ。どうだい、もうだいぶ細くなってるんじゃないかい?」

 シンさんの言うとおり、確かにタケシの中指は細くなっていた。人差し指とほとんど変わらない太さだった。

「さっきも言ったように、君のケガの責任は僕のウチの責任だと思ってる。だから北野くん、頼むから手術を受けて欲しい。富山先生に頼んで、最初に君にプリントを届けて欲しいって言ったのもそのためだったんだ」

 この言葉を聞いた瞬間、体育教官室の去り際にゴリ山さんがどうして優しい言葉をかけてくれたのかが分かった。

・・・もしかして、ゴリ山さんはこのこと知ってんのか?

 タケシは、また新しい疑問が一つ増えた気がした。

※※つづく※※

  • 咲

    2009/11/06 00:35:43

    複雑ですね。タケシ君は悩んで悩んで、やっとの思いで野球を諦めたのでしょうから、その気持ちを急にまた奮い立たせろなどと言われても戸惑うは無理からぬ事と思います。
    ここに来てにわかに注目の集まったゴリ山さん。これから物語に深く関わってくるのでしょうか?

  • ヒナ

    ヒナ

    2009/11/05 21:55:52

     なるほど、体育教官室でゴリ山さんがタケシさんに気遣うような言葉を掛けたのは、シンさんから事情が伝わっていたからだったのですね。なぜ事情を知るような素振りを見せたのか理由が気になっていましたが、これで謎が解けました。

  • 闇幻の風魔王

    闇幻の風魔王

    2009/11/05 18:24:28

    そういうことか・・・・。
    謎が解けたぜb

  • 修哉

    修哉

    2009/11/05 17:53:19

    野球したいなら手術を受けるのが先決だと思います。
    僕も野球ができなくなったら、すぐに手術すると思うし
    治るわけがない指が、治るかもしれない、絶好のチャンスだと思います。

    ゴリ山さんが、もし知っていたなら早く言ってほしかったですよね

  • スイーツマン

    スイーツマン

    2009/11/05 01:32:28

     ゴリ山さんの存在が、ちょっとミステリアスに感じるのは、シンさんたちと関係をもっているということなのでしょうかね。いずれ全容が明かされるでようけれど。

     毎度呼んで戴きありがとうございます。