ジングル・キャット~後編~
正一は立ち上がり、家の中を歩き回った。
自分がさっきまでいたリビングには誰もいなかった。トイレにも浴室にも誰もいない。
ふと見ると、台所の灯りがついていることに気がついた。覗いて見ると、誰かがコンロのところで何かをしている。
それは、小さな女の子だ。年齢は、5,6歳くらい。黒いワンピースを着ていて、首には緑色のリボンと小さなベルをつけている。
踏み台に乗って、コンロに火をつけ、ミルクパンで牛乳を温めている。テーブルには蜂蜜が置いてあるので、どうやらハチミツミルクを作ろうとしているようだ。
(夢か?幻か?)
目をこすってみたり、頬をつねってみたりもしたが、やはり目の前の光景は消えない。
「よし、このぐらいでいいかな。」
女の子は火を消すと、ミルクパンを持って、テーブルの方へと振り返った。
「ん・・・・・・?あっ!」
「あっ!」
女の子が振り返った瞬間、目が合って見つかってしまった。
「な~んだ。見つかっちゃった。」
「君だったのかい?一昨日から、部屋を片付けたり、スリッパを用意してくれたのは。」
「うん。」
「さっきこのひざ掛けを僕にかけてくれたのも、君なのか?」
「うん。」
「どうして僕にここまでしてくれたんだい?」
「恩返しがしたかったから。」
「恩返し?」
意味がよくわからないが、とりあえず女の子が先ほど作ったハチミツミルクを差し出してきたので、さっきのリビングで飲むことにした。
「君も飲みなさい。」
「え?」
正一は孫のマグカップを持ってきて、自分の牛乳を少し分けた。
「で・・・・・・、君は僕になんで恩返しを?僕は君になにかしたかな?」
「わたし、ジングル・キャットだから。」
「ジ、ジングル・キャット?」
「うん!」
はて?なんのことだと思った。
が、聞こうと思った瞬間、突然また眠くなってきた。正一はそのままソファーに倒れこんで眠ってしまった。
「本当は、姿を見せちゃいけなかったんだ。昨日の満月のおかげで、神様と月の女神様の力がもらえて、人間の姿になれたんだよ。だから、色々やったけど、見つかっちゃったから、これでおしまい。ごめんね。おやすみなさい、牧師様。」
正一は夢うつつの中で、一昨昨日のことを思い出した。
教会でクリスマスの準備をしていたときに、教会の近くで凍えている小さな黒猫見つけた。正一はすぐにその猫を教会に入れた。
シスターの中でちょうど仔猫を飼っている人がいたので、その人から仔猫用のミルクを一つ譲ってもらって、子猫に与えた。
ミルクを飲むと、仔猫は近くにあった小さなベルをいじり始めた。それは、子供たちのプレゼントの飾りに使う小さなベルだった。
「これが気に入ったのかな?」
そう言うと、正一は飾り用の緑色のリボンとベルを子猫の首にかけた。
「あはは。かわいいよ。これでジングル・ベルならぬシングル・キャットだな。」
正一は目が覚めた。
あの後、そのまま一晩ソファーで眠ってしまったようだ。だが、毛布がかけてあったおかげで寒くなかった。
「あの子がかけて行ってくれたのか。」
正一はいつものように教会に行き、礼服に着替えた。
「にゃ~ん」
「おや?」
何処からか、猫の鳴き声が聞こえた。それは、あのときの黒猫だ。
「このリボン・・・・・・。そうか、君だったのか。家に来るかい?」
「にゃ~ん。」
まるで、猫は「うん」と返事をしたかのようだった。
「神よ、あなたからの贈り物でしょうか。心より、感謝いたします。」
正一は、礼拝堂の十字架に向かって祈りを捧げた。その横で仔猫も十字架にお辞儀をしていることは気がつかずに。
YUKIE
2009/12/07 21:58:13
kamekoさん:ありがとうございます(^^)もう1,2作品クリスマスの話UPする予定です。そちらもお楽しみに☆
あじょしさん:ありがとうございます(^^)光栄です☆趣味で昔書いたものです。最近は忙しくて書けないのですが。
あじょし
2009/12/07 09:36:39
すごい小説!
才能ある~^^v
kameko
2009/12/06 21:39:30
ステキなお話をありがとう~(^.^)
黒猫は幸運の象徴とも言われてますよね~。
もうすぐ クリスマス♫ このお話し似合いますねっ
とてもホットな気分になれました^^