Ben日記

ベンクー

思ったこと、感じたことの日記

タケシの武勇伝…第二部(4)

自作小説

---第1部あらすじ---

 将来を有望視された野球少年北野健(タケシ)は、中学3年の冬、不慮の事故で左手に銃弾を受けてしまいボールが握れなくなってしまう。
 8ヵ月後、仕方なく進んだ地元の高校で鬱屈した毎日を送っていたタケシは、成績不振者が集められる夏休みの補習授業で佐々木真也(シンさん)と出会う。
 シンさんの家に招かれたタケシは、彼の話から事故の事情を知り一時憤慨するも、手術によってもう一度ボールを握れるようになると勧められる。
 戸惑いながらも、自分を応援してくれるさまざまな人々の思いに触れたタケシは手術を受けることを決断した。
 手術後、びっちり予定が書き込まれたリハビリ表には「タイピング」と書かれてあったのだが・・・


≪タイピング開始≫

 タケシは、テーブルのPCにディスクを差し込むとちょっとウキウキした気分で画面を見つめた。何しろタケシの家にはパソコンがなく、学校以外でこうした機械に触れるのは初めてだったからだ。

 程なくプワ~ンという音とともに、画面にキーボードの画像が浮かび上がるとスピーカーから『Enterを押してください』という声が流れた。押す場所を示すEnterキーの場所がチカチカと点滅している。

 指示どおりEnterキーを押すと、急にスピーカーからコツコツと一定のリズムを刻む音とともに、『ヒダリテ、ナカユビニ、サックヲハメテクダサイ』という声が流れた。

…おもしれー!

 タケシは初めてゲームに触れた子供のように、画面に映った画像と本物とのあいだに忙しく目を走らせた。すると、サーバーの画像が表れて、指サックがセットされている場所を点滅で示した。

 タケシが指示どおりに指サックをはめると、サックの先端にある小さなランプが赤く点滅し始め、同時にセットされていたサーバーのランプも点滅し始めた。

…おお、連動してんだ。すっげー!

 ランプの点滅はどんどん早くなり、最後にはピーっという音をたててランプが点いたままになった。すると、『シバラク、オマチクダサイ』という声が流れ、サーバーがカリカリと音を立て始めた。

 数十秒後、『登録しました。もう一度Enterキーを押してください』の声が流れ、タケシがキーを押すと、急に画面いっぱいにアナログ時計の画像が表れて、『イスニスワリ、Jキーニヒトサシユビ、Tキーニナカユビ、Eキーニクスリユビ、Aキーニコユビヲオイテクダサイ』と指示された。

…くっ、きつい。

 ケガをして以来、タケシは意識して指を広げることなどしてなかった。そのため指間神経が弛緩しており、指定の場所に指を置くだけでも一苦労だった。

 それでも何とか配置すると、またまたスピーカーから『デハ、タイピングヲハジメマス。コエニアワセテ、キーヲオシテクダサイ。ジカンハ10ビョウデス。デハ、ハジメマス。J、T、E、A………』とキーを唱え始めた。

 スピーカーから流れる機械的な声に合わせて、タケシはキーを押し始めた。だが、力の入らない指のせいでなかなか声のペースについていくことが出来なかった。すると、突然声が止まり、『遅れました。もう一度やり直します』の声とともに、また最初からやり直すはめになった。

…たった10秒なのに!

 そのたった10秒が全くクリアできないほどタケシの神経は弱っていたのだ・・・

 タイピング初日。

 たった10秒をクリアするのにタケシは30分を要した。これが地獄のタイピング・リハビリの始まりだった・・・

※※つづく※※

  • 咲

    2009/12/26 23:37:28

    タイピング、確かに指の感覚を取り戻すのは役立ちそうですね。
    うちの母はタイピングをやりすぎて網膜裂孔になりました。タケシ君も気をつけて!

  • スイーツマン

    スイーツマン

    2009/12/26 18:32:43

    タイピングソフトと、『巨人の星』の大リーグ養成ギプスを思い出しましたよ。
    タイピングソフトは、『北斗の拳』と『ガンダムシード』を買いました。たまにやると面白いのですが、毎日やるのは修行です、ほんと。

  • 麗蘭

    麗蘭

    2009/12/26 12:15:56

    時間という制限があると、普段から慣れている人でも難しいと思います。
    今まで殆ど動かすことの無かった指で10秒というのは、本当に過酷なのかもしれませんね。
    慌てず、投げ出さずリハビリできるのか…ちょっと心配です。これからもっと大変なのでしょうから。