五月雨♪*。

【人と妖と硲者】第二部 第一章 第二話

自作小説

「で、用件は‍?」

殺意が篭っているのではないかと思える声に私は冷や汗をかきながら恐る恐る返事をする。

「この街について知りたい事があるんです」

恐らく声は震えている。

元々、私はあまり人見知りをしたりはしない性格なはずだった。

しかし、今はどうだろう。

彼に睨まれただけでこの有様である。

今なら蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかる気がする。

ヒヤリと冷たい汗が背で流れる。

それでも、私はこの街について知っておかなければならない事がある。

声が震えないように、声を振り絞って彼に問いかける。

「…この街に妖怪が出るって本当ですか?」

その質問に彼は眉を寄せた。

「それを知ってどうする」

冷たい声だった。

まるで、こちらの質問に興味の無いようなそんな雰囲気。

「可笑しな事を言っていると思われるでしょうが、私、昔妖怪に助けられたんです。その妖怪に一言、あの時言えなかったお礼を言いたくて…」

妖怪自体を信じていない人間であればおそらく馬鹿にされるであろう理由。

今までもそうだった。

誰に聞いても笑われたり、馬鹿にされた。可哀想に思われる事だって少なくなかった。

ぎゅっと口を結び返答を待つ。

「その妖怪に出会ったと言うのは本当にこの街で正しいのか?」

彼が口を開いた時、てっきり変な事を言うなとでも言われるものと思っていたから彼の問に一瞬間が開く。

「…あ、えっと?」

「なんだ、その顔は」

「い、いえ!ただ、てっきり馬鹿にされるのかと思いまして…」

わたわたと焦る私に彼は呆れた様にため息をついた。

「この街は妖がでるのは日常茶飯事だ。別に馬鹿になどもしない」

「日常茶飯事…」

唖然とした。

今まで旅してきた街はいったい何だったのかと思う程に。

驚きのあまり阿呆面を晒している私に彼はもう一度問う。

「それで、その助けられたという妖怪はこの街に居るものなのか?」

その問に私は戸惑う。

何しろ、もう何年も前の話。

両親と旅行として行った街での出来事であり、正確な場所が分からない。

黙り込んだ私にめんどくさくなったのか彼はまたもや深いため息を吐く。

「覚えていないのならいい。だが、その妖の特徴位は覚えているだろう?」

「えっとぉ…」

容姿もほとんど覚えていないと言えば恐らく嫌な顔をされるだろう。

ただでさえ、面倒くさそうな雰囲気が漂っているのだ。

「幼い、人間とそう変わりない女の子…だったとしか…」

申し訳ないと思いつつそうとしか答えられなかった。

ダラダラと嫌な汗が背中をつたう。

「…そうか」

軽いため息と共に彼はそう呟き立ち上がる。

「情報は少ないがこちらも少し探してみよう。」

思わぬ返答に顔を勢いよく上げる。

「探して貰えるのですか?!!」

勢いがありすぎた。

明らかに彼は引いた様な表情をする。

「見つかる可能性は低いがな」

遠回しの肯定だった。

見つかる可能性がたとえ零に近かろうと私にとっては一歩前進だ。

「ありがとうございます!」

勢いよく上げた頭を今度は勢いよく下げる。

強面だが、とても優しい人だと感じた。

「期待はしないようにな」

そう言うとひらひらと右手を振る。

用が済んだのなら帰れと言いたいのだろう。

閉店の時間か。そろそろ、当たりも暗くなる。

「それでは、失礼します!」

早く宿を探さねば。

そう思い、店を出ようとする私の背に彼は今思い出した用に言葉を投げかけた。

「ひとつ、忠告だ。夜は絶対に山に入るなよ」

ピタ、と足を止め振り向くがそこに彼は居らず、既に奥に行ってしまったようだった。

首を傾げならも私は今度こそ店の外に居に出る。

「聞きたい事は聞けた?」

「ひゃい!!」

いきなり声をかけられ何とも無様な悲鳴が口から零れた。

薄暗くなり、わかりにくかったが出入り口のすぐ隣で先程の女の子が木の棒で地面に落書きをしていた。

「うん、ありがとう」

そう言って、笑えば彼女もまた、笑い返してくれる。

「危ない目に合いたくないなら君博の忠告は守った方がいいよ。」

「…え?」

「でも、妖が見たいのならその忠告に逆らうべきね」

幼い彼女の口から出たとは思えない大人びた言葉。

戸惑う私に彼女は笑い街の方を指さす。

「ここをまっすぐ行って、2つ目の角を右に曲がると宿屋があるよ」

少しの薄気味悪さを感じながらも私は少女に笑いかけお礼をいう。

「ありがとう、また、来るね」

今度こそ、あの私を助けてくれた子にお礼を言わなければ…