五月雨♪*。

【人と妖と硲者】第二部 第一章 第三話

自作小説

店の少女が言っていた宿を見つけて、そこで1晩過ごす事に決めた。

しかし、先程言われた彼女の言葉がどうにも引っかかる。

「危険な目に合いたくないなら忠告を守るべきで、妖怪に会いたいのならば忠告に逆らうべき、ね…」

あの、妙に大人びた口調もその言葉の意味も気になってしょうがない。

もしかして、狐に化かされた?んなまさか…。

ひとつを疑えば全てが怪しく感じてしまう。

「う〜ん。わからん」

元々、頭は良くできていないのだ。

考えてどうにかなるものでないことは自分自身が1番わかっている。

「どうせ、しばらくこの街にいるつもりだしなぁ」

ごろりと、宿の畳に仰向けに転がり天井を見上げる。

考えるのは後にしよう。とりあえず寝よう。

敷かれた布団までそのままゴロゴロと転がりたどり着く。

きちんと洗濯されている清潔なにおいだ。

「まずは、忠告は守る事にしよう。」

いきなり逆らうのは良くないだろうと私の心が訴えている。

もしも、何も情報を掴めなかったら逆らうのもありだろう。

危ない目に合うかもしれないと言われているが、私はそれよりも助けてくれてたあの妖怪にお礼を言うという目的の方がよっぽど大切な事だから。

そういう方針で行こうと決め、私は目を閉じた。



その夜、私は久しぶりに夢を見た。

ただ、ただ、ひたすら山道を走っている夢だ。

どうして走っているのかは分からない。

でも、止まってはいけない気がした。

走り続けなければならない、そんな気がして足を緩める事が出来ない。

息が苦しくなる。

足がもう動かないと訴えてくる。

木の枝や葉に擦れ肌に傷が増えていくのが分かる。

だけど、止まってはいけない。

止まってしまえば、そこで終わってしまう。


───何が?


そうだ、何が終わるというのだろうか。

苦しいのならば走るのを辞めてしまえばいい。

そう、思うのに何故か、足は止まらない。

止まってはいけないと誰かが言う。

瞬間、何かに足を引っ掛けてしまう。

木の根かなにかだろう。

しかし、そんな事を考える暇もなく、私の体はバランスを失い、宙に投げ出される。

勢いよく上半身が地面にぶつかり、脳が揺れる感覚に気持ち悪くなる。

終わった。

何故か、そう思ってしまった。

もう、おしまいだ。

なんの事だか分からないがそう感じてしまった。

顔を上げることが出来ない。

何故か?

恐怖でだ。

得体のしれない物が私に迫ってきているという予感だけがひしひしと伝わってくる。

嗚呼、ここで終わりか…。


そう、思った所で夢は終わった。




気がついたら私は布団の中で上半身を起こし乱れた息を整えるのに必死になっていた。

実際に走っていた訳では無いのに息が乱れ、心臓が激しく動いている。

夏という訳でもないのに全身に汗をかき、髪や寝着が肌に張り付いて気持ち悪い。

今まで寝ていたにも関わらず、全身の倦怠感が凄くとても起き上がるような気力がない。

さっきのは何だったのだろうか。

ただの夢、何だろうか。

何処と無く既視感を覚える夢。

それでいて、何だか嫌な予感を感じてしまう君に悪い感覚。

ゆっくりと息を整え、もう一度布団の上に横になる。

「とりあえず、昼まで休憩しよう」

今のままではとてもこの街を探索出来そうもない。

体力が回復したら、昼から外に出よう。

そう思い、私はもう一度目を閉じた。