しだれ桜❧

刻の流れのー140

自作小説

「自然死に見せかけろ」
梶は石橋のその一言に悩んでいた
自然死した証拠を残せということだ
さすがに基地司令官が他殺だと大ごとになる

完全犯罪とは 普通は死体をなくす事
拉致して強アルカリ液に放り込めば すっかり溶けて何も残らないのだが・・・
完全犯罪とは正反対のことをしなくてはならない

梶にしては珍しく顎に手を当て考え込んでいる
しかも2度の恐怖 さぁ どうしたものか

そこへ黒服が佇んでいる梶に左から近づいてきて
「準備が整いました」
梶は眉間にしわを寄せたまま黒服を目だけで追い
「よし 久しぶりの開店だ 皆に粗相のないように伝えろ」
そう言うとフロントの方へ歩き出した

フロントにつくと 黒服が
「今日のお客様リストです」
と梶にリストを差し出した
リストを受け取りページをめくると 勝見議員の名前とシュルツの名前を見つけた

そこを指さし黒服に 「この席のコンパニオンに桜を加えろ」
「それから桜を呼んでくれ」
黒服は一礼して桜を呼びに行った

『とりあえず餌だけは準備しないとな』

他の客とワインリストを比べながら待っていると桜がやってきた
「おはようございます」
「桜 おまえは 今日は勝見議員とシュルツ様の接待だ」
「はい 伺っております」
「よし ではお二人は もうすぐ来るだろう 粗相のないように」
それだけ言うと 再びリストに目を落とす
「わかりました」
桜はそういうと 自分の担当の部屋を確認して
「失礼します」
そう言い残し担当の部屋に移動した

梶はシュルツが桜を気に入っているのは分かっていた
あまり露骨な媚を打ってもいけない
そうでないとその媚が 人の目には不自然に映り記憶に残る
あくまでも偶然を装って 奴を基地の外に誘い出さなければならない

『さて そのあとだな』
するとまたあの石橋の難問が頭の中に浮かんでくる

さすがにその夜は 店も忙しく 梶もそっちに忙殺されてしまった