蘭々

久遠永遠桜の下で【1】パジャマパーティー

自作小説

「ミカル、天界の用事が済んだら 必ず戻ってこいよ」「クォン・トワ桜の木の下で待ってて タケル…」

ミカルは 自室のベッドで目を覚ます。(また あの夢だ…)ミカルは 窓からマカマカイの空を見上げる。
「今夜は 新月…」ミカルの心の中で 嬉しいような 苦しいような 複雑な感情が渦巻き、切なげに顔を歪める。
コンコン。マリアが ミカルの部屋をノックする。
「ミカルさん!おはようございますぅ~!朝御飯  出来てますよぉ~!」
三角巾にフリフリエプロン姿のマリアが ミカルを呼びに来た。

「いっただっきまーす♪」「マリアに 毎日 食事を作ってもらって…何だか悪いなぁ」
マリアが マカマカイにあるミカルの家に来てから数日経っていた…。

話は数日前、メンドーサ隊事務所で ゴールドピーマンドリンク作りをしている時まで 遡る…。 
「マリア、あのね…」ミカルは マリアにそっと耳打ちした。
「新月の夜まで 私の家にお泊りしてほしいの」
「ミカルさんのお家に、ですかぁ?」
「うん。新月の夜、マリアに立ち会ってほしいの…」
「新月になるまで 何日かありますねぇ~」
「私が マカマカイを案内してあげる」
「おおっ、楽しみですぅ~。それで、いつから お泊りするんですかぁ?」
「たった今からよ!」ココアが マリアとミカルの肩に手を置いて 瞬間移動した。
ココアたちが姿を消した直後、置き手紙が ひらりと 舞い降りる…。

「おおっ!ここがミカルさんのお家ですかぁ?」
一瞬にしてミカルの家のダイニングに瞬間移動してきた。
「マリア、いきなりで ごめんね…」ミカルは 申し訳なさそうに言う。
「メンドーサ隊の食堂のテーブルに置き手紙をしておいたから 心配いらないよ」と、ココア。
ピンポーン。ミカルの家の呼び鈴が鳴る。
「ミカル、迎えに来たぞ」
赤髪のサキュバスハーフの女「ミツル・モリガン」が ドアの前に居た。
黒髪ボブカットの気弱そうなハーピー族の娘「カンナ・ハーピィ」が、
ミツルの横からひょっこり顔を出しながら オドオドした口調で話し始める。
「ミカルちゃ~ん、忘れちゃったの~?
今日は アン・ダンテちゃんのお屋敷で パジャマパーティーする日だよ~。
もう とっくに パジャマパーティー 始まってるよ~?」

ここは アン・ダンテの屋敷。パジャマパーティー会場の手前にある衣裳部屋。
「5人ともカワイイ!パジャマ よく似合ってるよ!枕は どれでも好きなの 使っていいからね♪」
アン・ダンテのスヤ友(睡眠友達)で パーティーの補佐役である「クミン・グッスリト」が
手慣れた様子で マリアたちの身支度を 整えさせていた。
「アンちゃん、ミカルちゃんたちが 来たよ~♪」
「いらっしゃ~い…ムニャムニャ」
パジャマパーティーの主催者で 会場の屋敷の主「アン・ダンテ」は 寝言で返事をした。
「姉さん!寝言で会話を成立させないでって何度言ったら…」
執事服を着たアンの弟「ベル・ダンテ」は いつも 姉に振り回されている。
「Zzz…ベル、固いコト言わないでよ~」
「この通り 我が姉「アン・ダンテ」は すぐに寝落ちして 寝言で会話するような人でして…」
「パジャマパーティーの会場は こっちだよ~…ムニャムニャ」
弟の言葉など意に介さず アン・ダンテは パジャマ姿で枕を抱えたマリアたちを 会場に案内した。

「こんばんは~!「クマ・タイヨウ」だよ~!
『くまくまベーグル&ドーナツ』のパジャマパーティースペシャルドーナツを お届けにあがりました~♪」
クリーム色の体で「くまくまネグリジェ」を着た可愛いクマ「クマ・タイヨウ」は、
パジャマパーティーの参加者達に 棒付きドーナツや夢カワ色のドーナツなどを 配って回っている。

「あれ?マリア先生!?」「シッソナ姫!?」
ウェルカム王国の王女「シッソナ・トゥー・ウェルカム」は マリアを見て驚いている。
「まぁ!冒険者クラス担任のマリア・アレックス先生!いつも シッソナ姫様が お世話になってます。
私は シッソナ姫お付きの侍女「ジミナ・モブリット」と申します。
シッソナ姫様とは同室のチームメイトで フツツカ魔法学院の魔女クラスの生徒です。新聞部に所属して…」
「ジミナ~!自己紹介は いいから マリア先生達に お菓子と飲み物 持ってきてよ~!」
「はい、ただいま!すぐにお持ち致しますわ!」
ジミナは ベッドから降りて お菓子や飲み物が置いてあるテーブルの方へ行った。
その途中で クマ・タイヨウからパジャマパーティースペシャルドーナツを 受け取っていた。

「シッソナ、その子たち だ~れ? ていうか、人 増えてない?ま、大勢いた方が楽しいよね♪」
海底王国「マリーナ」の人魚姫「アクアマリン・オーシャン・マリーナ」が 気さくに 声を掛けてきた。
「アクアお姉様、カクテル 忘れてるわよ?」
アクアマリンに カクテルを渡しているのは 同じく人魚で妹の「テティス・オーシャン・マリーナ」だ。
「これで ウェルカム王国、マリーナ王国、セインティア王国…3国の姫君が勢揃いね」
ウェルカム王国の海向こうに位置する国「セインティア」の王女「サオリ・グローリア・セインティア」は
優雅に紅茶を飲んでいた。

「パジャマパーティーでの話題って言ったら やっぱり「恋バナ」だよね~♪」
アクアマリンが 恋バナで 話を振った。
「そういえば、あと何日かで 新月になるなぁ…」と、ミツル・モリガン。
「ミカルちゃん、新月の夜は いつも『クォン・トワ桜』の下に行くよね?」カンナ・ハーピィが続く。
「また あの人に…「タケル」に会えるかもしれないから…」
ミカルは ちょっと嬉しそうに笑って 頬を染めた。
「タケルって だ~れ? ミカルの彼氏?」と、アクアマリン。
「いつだったか忘れたけど 新月の夜に クォン・トワ桜の木の下で タケルが 私を助けてくれたの」
「助けてくれたって…あ、ロキさんですね?満月の夜の時も そうでしたけど 新月の夜も…」
マリアが 満月の夜 ミカルのサキュバス変身に立ち会った時のことを思い出しながら 補足する。
「うん。新月の夜も ロキが 来るの…だから、マリア。そばにいて 立ち会ってほしいの」

「ミカルさん 「クォン・トワ桜」ってどんな桜なんですかぁ?」
「クォン・トワ桜は いつも満開の桜の木で 決して枯れることなく 桜の花が咲き続けるの」
「おおっ!それじゃあ 春以外の季節でも お花見できますねぇ~」
「いつも 桜が咲き続けるし 夜になると クォン・トワ桜の花びらが ほのかに光るから 夜桜も キレイなの。
待ち合わせ場所やデートスポットに 利用する人たちが多いわ」
ミカルは いつになく饒舌に話している。
「クォン・トワ桜の木の下で 待ってるって 遠い昔に タケルと約束したような気がするの…」
「タケルさんは ミカルさんの『運命の人』なんですかぁ?」
「初めて会った時、何かビビッときたの…。会うのは 初めてなのに 昔どこかで会ったような気がするの…」
「きっと ミカルさんは 前世で タケルさんと会っているのかもしれませんね。
新月の夜に タケルさんに 会えると いいですね」
「うんっ、そうだね!」
ミカルは 嬉しそうに 笑顔で答えた。

こうして、パジャマパーティーの夜は 更けていく…。
「もう 食べられないですぅ~」と お約束の寝言を言うマリアに ミカルは優しく布団を掛けてあげた。

ーつづくー