どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

夢 (4)

自作小説

その夜、ビールが飲みたくてメインストリートのアイリッシュバーへ行った。バーは結構混んでいて、騒がしかった。カウンターの端に二つ席が空いていたので、横に座ってた男から一つ席を空けて、一番端に座った。
フレンチフライとバッファローバーガーを注文して、ビールを飲んでいると、

ヨゥ、見ない顔だな。
どっから来た?

一つ席をあけた隣の男が声をかけて来た。
赤毛の髭面でレッドソックスの古びたベースボールキャップを被っている。
肉体労働者らしく、ジョッキを持つ指の爪の間が黒ずんでいる。
一生落ちないように見える汚れは固執的に男の指のシワや爪の間に食い込んでいる。
きっとその男が死んだ後もなお、その黒ずみは男の指のシワと爪の中に食い込み続けるのだろう。
もうだいぶ飲んでるらしく、男の前のカウンターにはジョッキがいくつも並んでいて、髭面はボタンを5つばかり大きく開け、赤毛の胸毛の生えた厚い胸は赤くなっている。
腹はでっぷりと大きく迫り出していて、髭面の顔も赤く白眼までも赤くなっている。

ああ、ニュージャージーからだ。

と、おれは嘘をついた。

仕事か?

髭面は大げさにおれをギロリと値踏みするように見ながら言った。

まあ、そんなところだ。

はは、まあ、そんなところか?

髭面の男は、おれの言い方が気に入らないのか、憎しみが込められた気色の悪い笑顔で皮肉としてそう言った。どうやら髭面は酔っ払って絡んできているようだ。

まあ、そんなところってのは、仕事なのか、どうなのか、はっきり言えねえってことか?

髭面はアルコールと歯周病の混じった臭い息を吐きながらおれに顔を近づける。
一つスツールを空けた距離でも、その匂いは強烈だった。
おれは出来るだけ表情を変えないように気をつけながら、平静を装って言った。

いや、そんなことは無い。
出張で来ただけだ。気を悪くしたなら、謝る。

気を悪くしたなら?
そうだな。おれは気を悪くしたぜ。
お前のスカした態度にな。

髭面はそう言いながら、一つ席を詰めて、おれの真隣に座ってきた。

Hey、ハロルド、他所から来たお客に絡むのはやめろ。

バーテンがその男に注意する。

別に絡んでるわけじゃねえ。。
他所から来たなら、それなりの礼儀作法ってもんがあんだろう?
おい、そう思わねえか?
見てみろ、こいつのスカした態度をよぅ。

髭面はバーテンにそう言うと、おれに顔を向けて睨みつけ、ジョッキを煽ってビールを飲んだ。

おれは別に静かに飲みたいだけだ。

おれがそう言うと、髭面はビールを飲む手を止めた。

なんだと。。?
このおれがうるせえってことか?
このクソ野郎が!!

髭面は低い声でそう言った途端に、カウンターの上に並んだ空きジョッキを思いっきり腕でなぎ倒した。ジョッキは派手な音を立て、床で割れて飛び散った。
髭面は屈強な右手でおれの首の後ろを掴むと、左拳で顔面をおれの左顎の辺りを殴った。
おれはスツールから吹っ飛んで後ろの壁に後頭部をしたたかにぶつけた。
女たちの悲鳴が上がる。

おい!!何してんだ!?ハロルド!!!

バーテンがカウンターを飛び越えて、髭面を止めようとしたが、それよりも早く髭面は壁際に倒れているおれの肩をブーツで蹴とばした。
強い衝撃が左の肩口に走る。
バーテンと他の客たちが髭面を羽交い締めにして止めて、おれから引き離す。
髭面はバーテン達に抑えられながらもまだ大声で何事かわめき散らしてる。

おれはゆっくり立ち上がり、髭面を見た。

おい、、大丈夫か?

バーテンがおれを心配して言った。
おれは一つ呼吸してふらふらする頭に酸素を送ってから、何も言わずに羽交い締めにされてる髭面の顔面に、素早く十分な体重を乗せたコンパクトな右ストレートを叩き込み、ほぼ同時のタイミングで左掌で金的を下から掬い上げるようにはたき、髭面の頭が下がったところに間髪入れず、膝蹴りを思い切りぶち込んだ。
髭面の鼻は完全に折れ、顎にもヒビが入った感触があった。
2秒もかかっていないだろう。

そうだ。お前はうるさい。

おれは倒れ込んだ髭面を見下ろしてそう言うと、バーテンに$300渡して、迷惑料だ。すまない。と言って店を出た。
髭面は床にうずくまって血だらけになった顔面を抑えながら呻いていた。
大量のビールで酔いも回っているからだろう、出血がひどかった。
バーテンも他の客たちも店中がみんなあっけに取られていた。

結局、夕食にはありつけず、ビールをジョッキ半分飲んだだけだった。
他の店で夕食を取ることにした。
夜のプロビデンスは落ち着いた雰囲気で、夜風が熱くなった体に心地良かった。

重役になった頃、ニューヨークでは上場企業の重役を狙った身代金誘拐事件が多発していた。ロシアだか中国だかのマフィアがやってるなんて噂があったけど、本当のところはわからない。
それで、週末に一緒にスカッシュをしている銀行の重役の男が護身術のクラスを取っているとビールを飲みながら話していて、もしよかったら君もどうだい?と、誘われた。
興味本位で行ってみると、思ったより面白く、おれは結構真剣に護身術を練習するようになった。
イスラエルの軍隊格闘技、クラヴマガをベースにした護身術で、実戦向きだった。
さっきは初めて実際の喧嘩で使ったが、思っていたよりずっと柔らかくスムーズに体が動いたし、実は楽しんでさえいた。

おれは家族を捨てても何も思わず、見知らぬ街で誰だか知らない男の鼻を折って叩きのめしている。
自分がどんな人間なのかわからなかった。
しかし、今は自分がどんな人間なのかなどどうでも良かった。



次の日の朝、ホテルの部屋のシャワーを浴びて、大きな鏡の前に立つと、左肩に蹴られた青あざが残っていて、動かすと多少痛みがあったが、殴られた顔は唇が切れたくらいで大したことは無かった。ああゆう大男の酔っ払いのパンチは往々にして大ぶりで見た目は派手だがその実、大して芯を食っていないものなのだろう。肩の痣も数日で治りそうだった。
なんだか鏡に映る青あざのある自分の姿が少し誇らしくも見えた。

  • ケニー

    ケニー

    2024/03/10 21:27:07

    べるさん、

    そうですね〜、毎日、トランプ関連のニュースばかりです〜(涙)

  • べる

    べる

    2024/03/10 12:51:48

    ウイリアムさん、ケンカも強いし、その後の迷惑料払って去るのも完璧です。

    そういえばこの前ニュースで流れてましたが、NYの地下鉄の治安悪化が相当問題になってて州兵が派遣されたそうですね。

    またトランプが再選されたら銃規制を撤廃するとか言ってるし、恐ろしいですね・・・