だからといって何でも無い正白SS
ーとんでもないモノを作ってしまった・・・ー
ホルモン系のあらゆる実験を行った研究室で入江正一は唸った。
強い肉体に改造出来る薬を作ろうとしたつもりが、副産物で女性ホルモンを限界まで高める薬まで作ってしまった。
実験としてはゴミも同然なのだが、さてこのゴミ(副産物)をどう処理しようか・・・。
困り果てた正一は実験室を出て仕事場に戻りコーヒーを飲み、疲れた身体を癒そうとヘッドフォンを耳に当て自分の世界に浸りこむ。
それを許すまじとヘッドフォンを外しに掛かる手が伸びた。
「正一、新しいモスカのデータ」
スパナだ。
中性的な面立ち。
さっきの薬の副産物を飲ませてみてもさほど変化が出ないかもしれない。
そんな不純な思考が脳裏を掠める。
でも駄目だ。
スパナの体格で女性ホルモンを高めると目のやり場に困りそうだ。
「うん。ちゃんと目を通して置くよ」
渡された資料を軽くデスクでトントンと叩きクリップで止め、右端に積む。
パソコンをマウスでクリックすると知らない間に白蘭サンからのメールが来ていた。
『今からそっちに行くけど良いかなぁ?』
良いか悪いかというよりごり押しにしか見えないメール。
「ってえぇ???!今から?!」
バタバタと白い服を羽織り、白蘭が到着したであろう部屋の前で息を整える。
コンコンとドアをノックする音が響く。
「失礼します」
「畏まらなくてもいいのに♪ここには僕達しかいないんだからw」
光に解けてしまいそうな出で立ちの彼を見、いつも思う。
この世のモノじゃないみたいだ。
「どうしたの?冴えない顔して」
心の内を読まれた。
正一の心臓がギクリと跳ね上がる。
「・・・実は作っている薬の副産物が出てしまって」
諸々を白蘭に話し、副産物の処理に困っている事を打ち明けた。
「これって飲んじゃダメかなぁ?」
光に照らされキラキラ光る小瓶を弄びながら白蘭は真剣に答える。
「それはマズイでしょ。ボスがボンッキュッボンとか・・・」
正一は変に想像が逞しいのか言った後顔を赤らめ口元を左手で覆う。
「もしかしてボンッキュッボンじゃないかもしれないよ?胸もペッタンコかも」
「・・・それはそれで・・・」
正一が白蘭に目線を合わせ辛そうに横を向いた。
それを見て楽しそうに白蘭は微笑み、副産物の薬を飲み乾した。
「ってええ!!?ちょっええぇ!!;」
「飲んじゃっッた・・・ッ」
白蘭の喉から僅かにしゃっくりが上がり、気分が悪そうにソファに身を預ける。
「・・っく蘭サンッ!白蘭サンッ!!」
正一の大きな声で起こされる。
でも、こんな取り乱してる正一は滅多に見た事がない。
「・・・どうしたの?正チャン」
正一に手を伸ばし正一の頬に触れた。
「身体の方は大丈夫なんですか?」
言われて胸に手を当てる。
「これと言って・・あれ?僕声高くない?」
「身体も若干縮んでます」
白蘭は自分の服の中をマジマジと見詰め、不敵みに笑う。
そして正一に抱き付く。
「正チャン今日僕1日暇なんだぁw」
ささやかな胸が正一の腕に当たる。
「何が言いたいんですか?」
「ん~今日一日、僕と付き合ってよ」
遊園地のベンチにNOと言えない日本人、入江正一の姿があった。
隣りでアイスを持ってはしゃいでいる女の子は入江正一とは釣り合いが取れない程のキュートな女の子だった。
「正チャン、次はこれ乗ろうよ!」
遊園地のMAPを広げ楽しそうに女の子は微笑む。
「まだ乗るんですか?僕ちょっと限界・・」
「そうだね、もう日も暮れてきたし観覧車乗って終わろうか」
そう言ってアイスをすくい正一の口の前まで運ぶ。
白蘭の差し出されたアイスに戸惑いながらも付き返せず口に頬張る。
そんな事をしながら夜が訪れ、急ぎ足で観覧車へと向かう。
2人で観覧車の中に乗り込み一先ず息を付いた。
「間に合って良かった」
「正チャン、町のライトアップ見える?とっても綺麗だよ」
「ちゃんと見てるよ。とっても綺麗だね」
白蘭の座っている椅子の方に座り直し、2人は並び合って星空とライトアップを眺め続けた。
「この光が全て僕のモノに成っちゃえばいいのにね」
そんな事を本気で言ってしまう人だって事を正一は十二分に承知していた。
だからこそ、この素敵な景色を今だけでも2人だけのモノにしたい。
そんな欲望も正一の中にはあった。
「そうだね」
そう言って無言になる。
本当は抱き締めたいのに綺麗な顔立ちについ見とれてしまう。
「変な事、考えてない?」
「ませんよ」
そう言ってそっぽを向く。
その瞬間ガタンッと音がし、観覧車の動きが止まった。
「故障かな?」
観覧車事態の明かりが消えていて解り辛いが白蘭がそわそわして落ち着かない。
「大丈夫。僕が居るから」
そういって暗がりの中白蘭の手を握り締め、優しくキスをした。
暫らくしてアナウンスが流れ、観覧車は動き出した。
「正チャン、僕の事、好き?」
「好き・・・に決まってる」
「僕も」
降りる間際の白蘭サンの笑顔に胸が締め付けられる感触を覚え、思わず僕は白蘭サンを抱き締めていた。