宮部みゆき『火車』、あるいはアバターという生き方
宮部みゆきの『火車』を読みました。
うん、おもしろい。おもしろかった。
一日で読んでしまいました。
誰なのかわからない人物の正体が
少しずつ解き明かされていく過程がおもしろいですし、
ずっと追い続けてきた相手が、
最後にその姿を優雅に現すところがいいです。
前にお話しした
萩尾望都『ポーの一族』の「ランプトンは語る」のような展開。
この主人公は、ある意味、
妖怪のような人物なんです。
相手に取り憑いて、
その人へとすり替わる妖怪がいるとしたら、
この主人公は、
たくさんの個人データの中から、
慎重に相手を選び出し、
その人を葬り、
その人へとすり替わる。
しかも、
そんな風にして生きていかねばならない理由が、
また、かなしい。
よく考えたら、
アバターである私も、
仮想情報への憑依と言えるわけです。
なんでそんな風にして生きていかねばならないのか…、
わたしの理由も
また、かなしいような…。
安寿
2010/08/04 18:17:52
つばささんへ。
そして、みなさんへ。
ミステリーの一部ネタバレになりますが、
もう少し書き加えましょう。
このミステリーの真の主人公「関根彰子」が
なぜホンモノの関根彰子にすり替わって生きる必要があったのかといえば…、
カードローンや住宅ローンによって多重債務を抱え、
闇金融に追われる身となってしまった本人やその家族は、
たとえ夜逃げをしたとしても、
自分の住民票や戸籍を新しい住所へ動かすと、
悪質な取り立て屋がそれを見つけて、
しつこく後を追い、
様々な嫌がらせを行うからです。
(それは違法な取り立てであり、
また破産手続きをとることで、
多重債務も解決可能ではあるのですが、
たいていの人は、そういうことを知りません。
そして「関根彰子」の場合は、
その手段を採ることができませんでした…)
そんな状況に陥った人が、
自分の存在をこの世から消すためにはどうしたらいいか…。
一つは、自死。
(文字通り、この世からあの世へと自分を送り込むことで
自分の存在を消してしまう)
一つは、野宿者・路上生活者となる。
(肉体は存在していても、
社会的・経済的には消えてしまう。
存在しているのに「存在」していない。
見えているのに「見えない」存在になる。)
一つは…、そして「関根彰子」が考え出した方法は、
他人へとすり替わる…。
ですが、
すり替わられたホンモノの関根彰子は、どうなったのか?
そして、
すり替わった「関根彰子」は、いったい誰なのか?
これが、このミステリーの謎なのです!
どう、面白そうでしょ(笑)。
(続く)
安寿
2010/08/04 18:16:54
つばささんへ、
そして、みなさんへの「続き」。
つまり、
このミステリーの『火車』というタイトルは、
「借金で火の車」という多重債務者の
追い詰められた状況を喩えているわけですが、
それだけではありません。
「生前に悪事をした亡者を乗せて地獄に運ぶ」乗り物としての「火車」。
それは、
闇金融の、
債務者を「この世の地獄へと送り込む」手口を思わせますし、
また、
闇金融に追われる「関根彰子」が、
ホンモノの関根彰子を「あの世へと送る」用意周到な手口でもあると思いますし、
そして、
一方では、このような犠牲者を次々と生み出し、轢き殺し続けながら、
他方では、「ご利用は計画的に」の一言のみで簡単に融資を行い、
利息を回収し続ける金融資本主義の、
火を噴き上げながら廻り続ける様をも喩えているのだと思います。
はい、皆さんも
「有料コインのご利用は計画的に…」 (イヤミ)
つばさ ㋪神子姫
2010/08/04 15:05:43
そういう話だったんですね。
ありがとう。少し興味が湧いてきました。
まず、積み上げてる本をまず読まないとww