恥ずかしかった失敗談
恥をかいてばかりの人生である。
そのなかで今でも恥ずかしく、己を許せないものを一つ。
初の海外は20歳の中国だった。
もう二昔も前の中国はまだ貧しく、人民の家は平屋ばかりで地方では電気のない家も多く、だだっ広いけれど自動車などタクシーとバスしか通らない街中の道は夜になると人気がなく、ただ街灯の下にだけ本を持った人が立ってむさぼるように何かを読んでいた。
さすがに初の海外だったので西安までのフリーツアーだった。
これは香港イン、中国国境でビザを取って広州1泊と西安までの飛行機までついている。
そこから帰りの香港アウトまではフリーなので、自力で宿やチケットを取らなければならない。
だからそれは初めて乗る中国の列車だった。
やっと取れた西安から洛陽までの列車は到着時刻が悪く、着いたのは夜中の11時過ぎ。
当時の中国はびっくりするほど治安がよかったが、さすがに深夜にとぼとぼ歩いてホテルに行くのは剣呑だ。
駅で夜明かしするしかないかな、と思っていたら、同じ列車から降りた男性が話しかけてきた。
彼は当時では珍しく片言の英語を話したと思う。
曰く「こんな遅くに、これからどうするのか」
私は参ったなと思った。
ここで駅で夜明かしすると言うのは少々まずかろう。
だから「○ホテル(ガイドブックに載っていたホテル名)に行くつもりだ」と言うと
「そうか。それならタクシー乗り場はこっちだ」
とどんどん歩き出す。
わあ、タクシーか。
高そうだし料金交渉がいるというから今まで乗らなかったんだけど。
とか、本当にタクシー乗り場に連れて行くんだろうな、とか思いながらついていくと
「ちょっと待って」とストップ。
まさかタクシーの運ちゃんトグルになってるんじゃないだろうな。
疑心暗鬼になるのは女一人旅なので許して欲しい。
そんなことを思っていると男性は「こっちにおいで」と路上で練炭の上に大鍋を置いてぐつぐつやっている男のところに連れて行く。
鍋はぼこぼこ、鍋の中は真っ黒。
その中にこげ茶色の物体がぽこぽこ浮いている。
なんだ、これ。
男性がそれを指差して何かいうと、男は皿に鍋から2つ置いた。
それはどす黒い色のゆで卵。
なんだこれは。
と思ったが、これは茶玉子と言う美味しい煮玉子であった、
お茶やしょうゆなどで味付けしてあるらしい。
彼はそれを私に食べさせるとタクシーのところに行き、料金交渉をして私を乗せ、自分は助手席に乗り込んだ。
そして運転手となにやら話していた。
多分、この外国人が危なっかしいので送る羽目になったのだなどと話していたのだろう。
事前にタクシー内で英語は話せないと聞いていたので、私は地図とにらめっこして行き先が合っているかをチェックしていた。
当時はまだ天安門事件の前、普通の中国人が海外を知るのはご法度で、親しくしていると密告されるとの噂もあったのだ。
ホテルに着いたのでタクシー代を払おうとしたのだが、男性は金を押し戻して自分で払ってしまった。
そしてホテルに入ると服務員に交渉して、手続きを手伝ってくれた。
それからロビーのソファの所で
「ぜひ明日洛陽を案内したい。ここに10時。いいね」と念を押して帰っていった。
本当に親切な人だった。
私はベッドに倒れこみ、ぐっすり眠った。
そして9時過ぎにいやいや目覚め、シャワーや着替えをして10時にロビーに降り立った。
男性はいない。
日記を書きつつ待った。
昼近くまで待った。
彼は来ない。
私はフロントに伝言をして、洛陽の町を一人で廻った。
ホテルに戻ってもあの人は来なかったらしい。
確かに10時って言っていたのに。
翌日は移動だった。
列車に乗って落ち着いてしばらくして、もしかしたらあの人の言った「明日」は今日のことだったんじゃないかと気がついた。
列車を降りた時は深夜の11時を過ぎていたのだ。
ホテルに着いたのは12時を廻っていたはず。
という事は、「明日」というのは・・・。
今でも思い出しては悔やむ出来事である。
glycogen
2011/10/27 21:28:56
わかばさん
そうだったらいいのですけど。
当時は、外国人には物言えば唇寒しという雰囲気だったので、余計に悔やまれる思い出です。
わかば
2011/10/27 17:20:42
ステキな旅の思い出ですね。
いやいや、「明日」というのは普通、眠った翌日のことだと思いますよ。
万が一、そのあくる日のことだったとしても、きっとホテルのフロントから状況を聞かれたんじゃないかな?
決して「日本人は約束を破る。けしからん」なんて思っておられないでしょう。^^