作・演出、鄭義信『焼肉ドラゴン』を見てきました。
新国立劇場に
鄭義信作・演出の『焼肉ドラゴン』を見てきました。
時代は、大阪万国博が行われていた高度成長の頃、
場所は、大阪伊丹空港のすぐ側にあった在日朝鮮人・韓国人の集落。
そこでホルモン屋を営む在日の夫婦と三人姉妹と末っ子の長男。
そして彼らを取り囲む在日の人々や韓国人・朝鮮人・日本人。
高度成長という時代と日本という社会から、
差別され、見捨てられ、置き去りにされてきた人々を襲う、
辛く切なく割り切れない出来事の数々と
それでも逞しく生きていく姿。
こんな一家の姿を、
笑いと音楽と共に描いていくのが、
この芝居です。
新国立劇場でこの春開催されている、
鄭義信の三部作を一挙に公演する、その第1作目。
やがて焼肉屋を含むこの地域一帯の在日の人々は、
「不法占拠」として住んでいた国有地から、
半ば強制的に立ち退かされ、
子供たちも、
長女は在日朝鮮人と結婚し、
「帰国事業」の一環として北朝鮮へ渡り、
次女は韓国人と結婚し、
日本語しか話せないまま韓国へと渡り、
三女は自分を愛してはいるけど、
仕事も財産もすべて失った日本人と結婚して、
日本に残って小さなスナックを経営していく。
そして末っ子の長男は、
中学校でのイジメによって不登校となり、
留年を余儀なくされて、自殺。
住む場所を追われ、家族も離散していく。
なのに、この一家を支えてきた父親は、
住み慣れた家を後にする前に
「未来は明るい」というのです。
過去に比べたら、未来は明るい…
過去はあまりに酷すぎて、
それに比べたら、
未来はどれだけ辛かろうと明るい。
ロシアでのユダヤ人夫婦と子供たち三姉妹それぞれの人生を描いた
『屋根の上のバイオリン弾き』のように、
この作品は、日本社会での被差別者たちそれぞれの人生を描こうとする
涙あり笑いありの人情喜劇なのです。
そんな人たちがいたこと、
否、現在もいることを記憶しておくために、
鄭義信はこの作品を、そして今回一挙に上演する三部作を描いたのでした。
ラストシーンは、
なけなしの荷物を荷台に乗せ、妻も一緒に乗せて、
片腕の親父さんがデコボコ道を一気に
リヤカーを引いて駆け上がっていく。
芝居が終わってからのカーテンコールは、
観客が立ちあがってのスタンディング・オベーション。
観客はもちろん泣いていますが、
役者たちも皆、舞台の上で涙を浮かべて、共に手を叩いている。
今週末の日曜日が千秋楽ですが、
今からこんな状態でどうなっちゃうのでしょう。
ああ、いいものを見たなあ…
今晩は是非とも
ホルモンを焼いてマッコリを飲まねば ☆\(ーーメ) オチはやっぱりそこか!