『i新聞記者』『さよならテレビ』『主戦場』
確定申告の書類を提出したついでに、
『i新聞記者』というドキュメンタリー映画を見てきました。
昨年はドキュメンタリー映画の当たり年でした。
この半年ばかりの間に見たドキュメンタリー映画について、
何かしら書いておかなくては… と思いつつ、
面倒くさがって、延ばし延ばしにしてきたので ☆\(ーー;
ここで一気に書いておきます。
『主戦場』は、
「従軍慰安婦」についての論争を検証するために、
上智大学大学院に在籍して、
様々な論者の主張を取材してまとめた、
ユーチューバーの作品。
ユーチューバーも、
ここまで丁寧に勉強をし、取材を重ねれば、
素晴らしいドキュメンタリーを作ることができるという、
見本のような作品。
取材を重ねていく内に、
「従軍慰安婦」の問題を否定する側の背後に、
ある団体の存在が明らかになり、
その団体の事務局長への取材と発言内容が、ある意味、衝撃的。
こんな人が事務局長である団体が資金を出して、
「従軍慰安婦」問題を否定するキャンペーンを行っていたのね。
このドキュメンタリー映画は、
公開差し止めを求めて、訴訟が起きましたが、
映像の中で、
発言が意図的にねじ曲げられて伝えられているいう訴訟ではなく、
一般公開することへの承諾を事前にとっていなかった、
ということが争点の訴訟だったように記憶しています。
ちなみに制作者は、書面で公開の確認を取っていたようですし、
出来上がった作品も、公開前に事前に送付されていたようです。
でも、作品に対して何の返答もなかったため、
そのまま公開したわけで、
制作者からしてみれば、
「今さら、なんじゃい」
という感じの訴訟ではないかと思いますが…
自分たちの主張が、
意図的にねじ曲げられて伝えられているのであれば、
公開差し止めを請求することもわかりますが、
そのような訴訟の場合、
ドキュメンタリー映画の中で描かれている自分たちの発言は、
自分たちの真意や本意ではないことになります。
でも、そこは否定したくないのでしょう。
つまり、映画の中での発言は自分たちの真意なのですが、
しかし、そのような発言を繰り返している自分たちの姿が、
広く一般に知られるのは困るから、
一般公開の許可を事前にとっていなかったということを争点にして、
上映差し止めを請求したのではないでしょうか。
ある意味、このドキュメンタリー映画は、
それぞれの立場の発言をストレートに伝え、
どの発言に説得力があり、
どの発言にプロパガンダ色や偏見が強いかを、
観客自身に判断させるような構成になっています。
自分たちの考えは間違っていないし、
説得力も十分にあると考えているならば、
公開差し止めという方法ではなく、
むしろ積極的に公開してもらって、
自分たちの論拠の説得力で争えばいいのに。
『さよならテレビ』は、
東海テレビが、自らのテレビ局にカメラを向けて、
テレビの報道番組の現状を描いたドキュメンタリー映画です。
事件の当事者・被害者には
遠慮なくカメラを向ける癖に、
自分たちにカメラが向けられると、
「誰に許可をもらっているんだ」と
拒否反応を示す編集デスク。
あんたたちにカメラを向けられた人たちは、
皆、同じように
「誰に許可をもらって、カメラを向けているんだ」
と思ったことでしょうに。
スポンサーの意向だから、
「是非もない」企画として作られていく、
お店や新製品の情報番組。
報道と広告の線引きは、
どうなっているのよ。
限られた報道予算と人員の中で、
働き方改革による時短を求められる制作現場。
取材の質を保つために、
取材報道に耐えうる人材を育てよう、
しかも、制作現場の時短も進めようと思うのならば、
人材の確保や育成に、
それなりの予算をかけなくてはならないはずですが、
テレビ局は、番組制作会社の派遣社員を使うことで、
急場を凌ごうとする。
そして、使えない派遣社員であれば、
1年限りで雇い止め。
なのに、正社員のディレクターは、
年収300万円で暮らしていくことを、
「考えたくもない」と口走る。
にこやかな笑顔の報道キャスターは、
いろいろな悩みを抱え、
「自分には向いていない」と語りつつも、
しかし、決して本音を語らないし、笑顔を絶やさない。
そんな彼を前面に出した報道番組も、
視聴率が振るわないとなれば、
テレビ視聴者の平均年齢が上がっていることを理由に、
もっと年配のキャスターへ交代になる。
ある意味、テレビは、もう終わっているのです。
メディアとしての役割、
ジャーナリズムとしての矜恃を失っているのです。
そのようなテレビの現状を容赦なく描き出したドキュメンタリー映画。
それでもまだ、
このようなドキュメンタリーを生み出すテレビ局が存在しているだけ、
大したものですが、
「ウチの局では、絶対無理」
という業界人の本音も多く聞こえてくる。
朝早い上映時間だと言うのに、
業界人らしき人々で、映画館は満員でした。
『i新聞記者』は、
東京新聞社会部記者、望月衣塑子を、
優れたドキュメンタリー映画を次々と生み出している
森達也監督が密着取材して作り上げたドキュメンタリー。
彼女の仕事ぶりを通じて、
彼女が対峙している官邸や政府官僚、
そして、政府と馴れ合う記者クラブなど、
マスコミの現状も明らかになる仕掛けです。
それでも、
彼女のようなジャーナリストのいることが、
僅かなりとも、この社会の希望と言いうるのですが、
そのようなジャーナリストを支えるのもまた、
私たちであるはず。
私たちが、
真実を知りたい、
おかしいことはおかしいと言いたいと思わない限り、
日本のメディアは、
購読数・視聴率・閲覧回数重視の娯楽情報番組ばかり、
「大本営発表」を右から左へと伝えていくばかりの、
機関になっていくのでしょう。