吉例「妄想筍」再掲
日曜日の午後にタケノコを茹でています。
去年の日記を見ると、
やはり同じ時期にタケノコを茹でてました。
なので、吉例「妄想筍」の再掲。
妄想筍
筍を茹でながら思ふ
もはや私の愛は
人ではなく
この時期の筍
乳白色の湯の中で
静かに冷めるのを待つて入る君へと
注がれて入る
香しき
鍋の何処にかぐや姫
糠に隠れて
おはしますのか
今年も違ふことなく
鍋の内より姿をあらはす君
焦らせることはあつても
裏切られることは決してなく
そつと
十重二十重の皮衣に手をかけて
悪戯にその細い肩を口に含めば
待ち望んだ逢瀬
淡泊にして鮮烈な芳香
官能の舌触りに理性は狂ひ
このまま食べてしまひたい
もう少しお待ち下さひませ
微笑んで諭す言葉に
己の所業を恥じ入る私
その姿では心細かろうと
たつぷりの出汁で煮含めた若竹煮
薄揚げと共に仕込んだ筍御飯
梅肉で和へた姫皮の突き出しと
初夏の装ひに整へさせて
仕上げには山椒の簪
君のために誂えたのだよ
見つめ合ふ二人
やがて無言の儘に
手を差し延べて
熱く激しく
満たされてゆく
これより先は秘め事なる故
皆さまの健啖な想像力に
お委せしたく候