安寿の仮初めブログ

安寿

これは、ニコットタウンに現れた安寿の仮想ブログです。

『ベイビー・ブローカー』を見てきました。

映画


是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』を見てきました。
良い映画です。

赤ちゃんポストに捨てられた子どもを、
養子として斡旋することでお金を稼ぐ、
つまり、赤ちゃんを人身売買することで収入を得ている二人の男と、
その赤ちゃんポストに子どもを捨てた一人の女。
そんな彼らを尾行し、
人身売買の現場を押さえようとする二人の女性刑事の物語。

とはいえ、これは犯罪映画や社会問題を取り上げる社会派映画ではなく、
赤ちゃんの養子先を探して韓国国内を旅していくロード・ムービーですし、
その旅を通じて、彼らが赤ちゃんに愛を向けていくことで、
一つの家族になっていくハート・ウォーミングなお話です。

残念なのは、この映画が
『万引き家族』や『パラサイト』が撮られた後に製作された映画であること。
つまり既視感があるのです。
『万引き家族』や『パラサイト』と、
どこか扱うテーマや物語の描き方が似ているのですよ。

もし『万引き家族』や『パラサイト』の前にこの映画が公開されていれば、
文句なしにこの映画が、
カンヌ映画祭パルムドールやアカデミー作品賞を受賞していたのではないか
と思います。


赤ちゃんの人身売買で収入を得ようとしていた彼らが、
赤ちゃんの世話を焼き、赤ちゃんの養子先を親身になって探していく内に、
赤ちゃんの幸せを願う一つの家族になっていくという話は、
万引きを行うことで生計を補っていた家族が、
実は血縁・婚姻関係にある家族ではなく、赤の他人の寄せ集めであった、
つまり、万引きされた家族であり、
にもかかわらず、彼らの方が家族らしい家族であったという
『万引き家族』の話と重なります。

二つとも、家族とは何かを問う物語なのです。
しかも、『ベイビー・ブローカー』の方では、
彼らが家族ではないことが初めから分かっているので、
彼らが家族となっていく姿が、より明確に描き出されているように思います。

『そして、父になる』も含めて、
是枝裕和監督は、家族とは何かを問う映画を作り続けてきましたが、
『万引き家族』『ベイビー・ブローカー』と作品を重ねる度、
是枝監督自身の中でこのテーマが次第にクリアに、
また進化/深化していったのではないかと思います。


また、ベイビー・ブローカーであることがばれないように、
その場限りの適当な嘘をつき、その嘘がばれないように、
彼らは互いに話の辻褄を合わせていくのですが、
話の辻褄を合わせる内に、嘘が次第に現実味を帯びていきます。
このような物語の進行の仕方は、
裕福な一家に寄生していくために、
適当な話をでっち上げ、その話を実現していくために、
家族に新しい役割を引き受けさせていく、演技させていくという
『パラサイト』の物語の進行と重なります。

しかも、『パラサイト』の方では、
適当な話をでっち上げ、その話を実現していく過程は、
ブラック・ユーモアであるのに対して、
『ベイビー・ブローカー』の方では、
コミカルな笑い、ハートフルなユーモアになっています。
その点でも、『パラサイト』よりも『ベイビー・ブローカー』の方が
見ていて微笑ましい嘘であり、物語なのです。

そして、ラスト。
赤ちゃんを守るために、犯罪を行い、自分は身を隠す男は、
『パラサイト』において、すべてをうやむやにするために、
地下に身を隠す男の姿と重なります。
どちらも演じているのがソン・ガンホであるだけに、
この同じような終わり方は、気がつく人も多いのではないでしょうか。


ですから、既視感、
悪い言い方をすれば、二番煎じのような感じがする映画ですが、
しかし、私は、『万引き家族』や『パラサイト』よりも、
『ベイビー・ブローカー』の方が好きです。

ですから、この作品の方が後になってしまったのが、
ちょっと悔やまれるのです。

  • 安寿

    安寿

    2022/07/29 10:16:31

    >Lydiaさん

    『万引き家族』や『パラサイト』よりも、
    私はこちらの方が、映画としても、物語としても好きです。
    ソン・ガンホさんが好きなら、彼が育児する姿を見ることができます。

  • Lydia

    Lydia

    2022/07/28 18:53:32

    「万引き家族」「パラサイト」(どちらも観ました)につながる映画のようですね
    ソン・ガンホ氏 味のある俳優さんです
    映画「タクシー運転手」面白かったです
    見に行きたくなりました^^