ガラクタ煎兵衛かく語りき

百合根理香子(ゆりねりかこ)

日記


(私の名前は百合根むかごといいます
もちろんあだ名です
本名は百合根理香子
そんなの知ってる人 今では殆どいない
でも いつからかなあ 〈むかご!〉 と呼ばれたら
すぐに振り返って「なあに?」と微笑む そんな私がいました)





 今もどこかに(多分)生存している女性(のはず)だ
年齢不詳、かつ面(顔)が詳細に割れて(知られて)いない
だから追いかけようも無く、調べようも無く、コツマナンキンよりも実在性が無い
所詮、wikipediaは、覚悟を決めた存在からはフリーでいられるツールに過ぎない


都内でアンティークショップを経営している
いや、そんな大層なお店ではありません
売り上げもそれなり
仕入れとしての海外旅行は大きな負担だけど
でもそれが無きゃ続けられないでしょ

お店はビルではなく地上2階の私の住まい
地上1階の店舗
地下1階の物品倉庫(2部屋)

私の持ってるものっていったらそれだけ

あとはなあんにもない
あ あとは 悪友かな


お声が掛かったのは去年
私ももういい年よ
数年振りに冬美から電話がきた


『やんない?』
何それ?
『バンド再開するの!』
はっ?
『菜々先輩から召集がかかったの!』


天地が引っ繰り返りそうな衝撃だった
視線の片隅に棚の血圧降下剤の存在を確認した
同時に様々なシーンが浮かんでは消え浮かんでは消え浮かんでは浮かんでは


若い頃 彼女達と連れ立った
私は歌えもしないし踊れないし楽器もできないし
でも楽しかった それは決して忘れられない
高之坂さんが私に言ってくれた言葉 今でも本当に忘れない




確認するようにふゆみ~んに訊いた
「私は何をすればいいの?」

冬美は鼻で笑った
「もうわかってるでしょw 菜々さんはこう言ってたわ コンセプターってね」


話しが全部繋がった 


高乃坂さんが昔 私に言ってくれた言葉
「むかごは私達を導いてくれたのよ」



よっちゃんも参加するみたいだし
人生最期の思い出に うん 本気出すか
自信はないけど うん できそうな気がする

コンセプターか
なんか今風ね
昔だったら”音頭取り”かしら
ええ 任せて それだったら昔よりもっと最高の音頭を取れるわ





そして百合根理香子は
仏壇の夫の遺影に何事か呟き
こともあろうにその小型の遺影を裏返しにして立ち上がった

「菜々さん!コンセプトをすり合わせましょうか!」
 



PS
 百合根理香子は前期高齢者で、有難いことに現在御存命である